Apollo傘下企業は借入金利が約1%高い?

―担保移転、債権順位の変更、訴訟を繰り返してきたPEと債権者の攻防

Financial Timesは2026年9月8日、米プライベート・エクイティ(PE)大手Apollo傘下企業の借入コストについて、興味深い研究結果を紹介した。

Vince BuccolaとGreg Niniによる最新論文“The Sponsor Premium”では、Apollo傘下企業のローンに、他の主要PEスポンサー傘下企業と比べて約100bp、すなわち約1%高い借入利回りが推計されたという。

では、なぜApollo傘下企業のローンには、約100bp高い借入利回りが推計されたのだろうか。

Apolloは、経営難に陥った投資先で、資産移転や保証解除などを巡って債権者と厳しい対立を繰り返してきたことで知られる。このことと、今回推計された借入コストの差は関係しているのだろうか。本稿では、Apolloと貸し手の関係を掘り下げてみたい。

記事紹介

2026年9月8日、Financial Timesは、“‘Apollo premium’ drives up debt costs for private equity giant’s portfolio companies”(「『Apolloプレミアム』がPE大手Apollo傘下企業の借入コストを押し上げる」)を掲載した。

記事が紹介したのは、Vince BuccolaとGreg Niniによる“The Sponsor Premium”という研究である。FTによれば、研究は2016年から2025年までに実行された約2,000件のレバレッジドローンを分析し、Apollo傘下企業のローンには、他のPEスポンサー傘下企業と比べて借入利回りが約100bp高いと推計された。

FTは、この価格差を、Apolloが債権者を厳しく扱うという評判と結び付けて紹介している。FTは、論文がApolloを、貸し手への「攻撃的な対応(aggressive treatment)」と市場で最も強く結び付けられているスポンサーと位置付けていることを紹介した。その評判を形成した案件として、Caesars EntertainmentとCore Entertainment Groupを巡る争いにも触れている。

論文によれば、Apollo傘下企業は、通常、他のPEスポンサー傘下企業より高いレバレッジを抱えているわけではなく、貸し手から担保を容易に切り離せるような緩い契約条件を採用しているわけでもないという。

FTによれば、研究者らの計量分析では、レバレッジや信用格付けなど借り手やローンの特性によって、ローン利回りの変動の79%を説明できた。さらにスポンサーに関する情報を加えると、説明力は84%まで上昇した。論文はそのうえで、スポンサーごとに残る利回り差と、貸し手への対応を巡る評判との関係を分析している。

一方、Apolloは研究方法に反論している。同社は、10年以上前の一つの案件に関する報道が評価を歪めているとして、研究を“flawed study”と批判した。また、Apollo傘下企業は競争的な条件で借り入れており、貸し手から幅広い支持を得ていると説明している。

もう一つ参照するのは、2026年7月7日付のThe Wall Street Journal “Serta Lenders Win $400 Million Award Over Rival Group’s Debt Deal”(「Sertaの貸し手、対立する貸し手グループとの債務取引を巡り4億ドルの賠償を勝ち取る」)である。

記事によれば、Serta Simmons Beddingは2020年、多数派貸し手との間で債務管理取引(Liability Management Exercise、以下LME)を実施した。この債務交換により、Barings、Invesco、Eaton Vanceなどを含む多数派貸し手は、Sertaの資産に対して従来より優先順位の高い債権を得た。一方、同じレバレッジドローンを保有していた少数派貸し手は取引から除外され、債権順位が多数派貸し手より低くなった。

少数派貸し手には、Apollo Global Management、Angelo Gordon、Gamut Capitalなどが含まれていた。少数派貸し手は、多数派貸し手だけを対象とした取引が融資契約に反するとして争った。

Serta側は、2020年の取引が融資契約で認められた公開市場での債務買戻しに当たると主張していた。しかし、WSJによれば、連邦第5巡回区控訴裁判所は2024年、通常の流通市場で行われた取引ではなく、特定の貸し手との間だけで交渉された取引であることから、この例外には該当しないと判断した。

そして2026年、ヒューストンの米連邦破産裁判所は、この債務交換によって多数派貸し手が得た利益は、同じ立場にある貸し手の間で比例配分されなければならないと判断した。取引に参加した多数派貸し手には、少数派貸し手に対して、最大2億6,100万ドルの損害賠償と約1億4,200万ドルの利息を支払うことが命じられた。合計額は約4億ドルに達する。

債務管理取引 (LME) はどう進化してきたのか

経営難に陥った企業が、既存の融資契約に残された余地や債権者との交渉を使い、借入負担を軽くしたり、新たな資金を確保したりする取引が、債務管理取引(Liability Management Exercise、以下LME)である。

本稿で主に取り上げるのは、その中でも、契約の「隙間」を利用し、既存債権者の担保・保証・債権順位などを動かすことで、新たな資金調達余力を作る取引である。

融資契約では、投資、追加借入、担保設定、資産移転などについて、一定の範囲まで認める契約上の許容枠は「バスケット(basket)」と呼ばれる。LMEでは、こうしたバスケットや子会社の区分、債権者の同意条項など、契約に残された複数の余地が組み合わされることがある。

代表的な案件を追うと、攻防の焦点は、資産・担保・保証の移転だけでなく、債権順位の変更、さらに貸し手同士の協力関係へと広がってきた。

なお、“The Sponsor Premium”による25社のPEスポンサー比較は知識ボックス①に、CaesarsからOptimumまでの各案件の詳しい経緯と契約・訴訟上の攻防は知識ボックス②に整理した。

A.2010年代――契約の「隙間」を使い、担保価値を既存債権団の外へ

GFC後の低金利環境では、コベナント・ライト(covenant-lite)ローンの普及に加え、投資、追加借入、資産移転などを認めるバスケットも拡大・複雑化し、借り手側に契約上の余地が大きい融資契約が広がった。こうした契約の「隙間」が、後のLMEで利用されることになる。

初期の重要案件の一つが、ApolloとTPG傘下のCaesars Entertainmentである。資産・事業の移転と一部社債の親保証解除によって、債権者が返済原資として期待していた価値や保証が、債務を抱える会社から切り離された。FTもCaesarsを、Apolloが債権者を厳しく扱うという評判を形成した重要案件として紹介している。

この仕組みをより分かりやすく示したのがJ.Crewである。同社は複数のバスケットを組み合わせ、ブランドや商標などの知的財産を非制限子会社(unrestricted subsidiary)へ移した。非制限子会社は既存融資の保証・担保の枠組みの外にあるため、いったん既存債権団の担保から外した知的財産を、今度は新たな資金調達の担保として利用できた。

企業側から見れば、既存資産から新しい借入余力を作り出せる。一方、既存貸し手から見れば、それまで担保として期待していた価値が外へ出ていく。この取引を受け、その後の融資契約では重要な知的財産の移転を制限する「J.Crew型の資産移転を防ぐ条項」が広がった。

B.2020~2022年――債権順位を動かし、複数の手法を組み合わせる取引へ

J.Crew後の融資契約では、重要な知的財産を既存担保から切り離す取引を防ぐ条項が加えられた。しかし、LMEを巡る攻防は、資産をどこへ移すかという問題だけでは終わらなかった。

2020年、Serta Simmons Beddingは、多数派貸し手との間で債務交換と新規資金調達を実施した。多数派貸し手(majority lenders)は既存債務より優先する新たな債権を取得し、取引から除外された少数派貸し手(minority lenders)は相対的に低い順位へ置かれた。

こうした順位引上げ取引(uptier)では、既存債務より優先する新たな債務を発行し、その資金提供や債務交換に参加する一部の既存貸し手を、非参加貸し手より高い順位へ置く。つまり、Sertaで動いたのは資産そのものではなく、同じ会社に貸していた債権者の返済順位だった。その後、取引は司法判断で争われ、債権者側も契約条項で対抗するようになった。

一方、KKR傘下のEnvision Healthcareでは、J.Crew型の防止条項がある中でも、別の資産と複数のバスケットを利用した資産移転が行われ、その後には優先債務の設定や順位引上げ取引も続いた。

J.Crew型のように資産を既存債権団の外へ移す手法と、Serta型のように一部債権者の順位を引き上げる手法が、一連のLMEの中で組み合わされるようになった。特定の経路を一つ塞いでも、別の資産、バスケット、債権順位を利用して新たな資金調達余力を作れる場合があった。

C.2023年以降――攻防はプライベート・クレジットと貸し手の組織化へ

2022年以降、金利上昇によって借入負担が重くなる一方、PEスポンサーが投資先を売却するEXITも長期化した。この時期にLMEや債務再編が相次いだが、高金利やEXIT長期化だけが個々の取引を直接引き起こしたとまではいえない。

その中で、LMEを巡る攻防は、銀行が多数の投資家へ融資を分配するレバレッジドローン市場だけでなく、プライベート・クレジット(非銀行による直接融資)にも広がった。

Vista Equity Partners傘下のPluralsightでは、スポンサーによる追加融資、担保取得、資産移動を巡って主要貸し手との再編交渉へ発展した。大型のプライベート・クレジットでも、スポンサーと貸し手の間で、資産・担保・追加資金を巡る利害対立が起こった。最終的には、主要貸し手が債務を削減し、新たな資金を投入してPluralsightの全株式を取得した。

さらに貸し手側は、会社やスポンサーから個別に切り崩されることを防ぐため、事前に共同歩調を取るようになった。その仕組みが貸し手協力契約(Lender Cooperation Agreement、LCA)である。LCAは、参加した貸し手による会社側との個別交渉や、共同提案から外れた取引などを一定期間制限する。

Optimum Communicationsでは貸し手がLCAによって結束したが、会社側は、その結束が資金市場へのアクセスを妨げたとして反トラスト訴訟を起こした。貸し手側が分断を防ぐために設けた対抗策そのものが、会社側から争われる対象になった。

資産・担保を既存債権団の外へ移す。債権者間の順位を動かす。貸し手側が個別に切り崩されないよう組織化する。LMEの歴史は、契約の隙間を巡って、企業・スポンサーと債権者が互いに対応策を更新してきた歴史でもある。

なぜ一部のGPは特に「攻撃的」と評価されるのか

A.GPは、現在の回収価値と将来の評判コストをどう比較するのか

経営難に陥った投資先でも、事業や資産に回収可能な価値が残っていれば、PEスポンサーであるGPには、その価値を守るために契約上の選択肢を検討する経済的な理由がある。

投資先の価値を少しでも多く残すことは、個別案件の投資収益だけでなく、ファンド全体の成績にも影響する。GPはLPから預かった資本を運用し、その実績を将来のファンドレイズにつなげる立場にある。従って、現在の案件で守れる価値を簡単に放棄しないことには、一定の合理性がある。

一方、強硬なLMEを繰り返すことには、現在の案件とは別のコストが生じる可能性がある。    “The Sponsor Premium”が示すのは、経営難の投資先で貸し手を厳しく扱うというスポンサーの評判と、別の傘下企業が支払う借入利回りとの間に一定の関係があることである。もし、過去の強硬策がこうした評判の形成に寄与し、貸し手がそれを価格に織り込んでいるのであれば、ある案件で守った価値の一部が、将来別のポートフォリオ企業の借入コスト上昇として跳ね返る可能性がある。

しかも、両者は同じ場所で発生するとは限らない。LMEによって守られる価値は現在の案件に帰属する一方、評判や資金調達への影響は、別の案件、別のポートフォリオ企業、別の時期に現れ得る。

そのため、個別案件だけを見れば合理的な強硬策が、GP全体でも同じように合理的とは限らない可能性がある。GPには、現在の案件で守れる価値と、将来の資金調達・評判コストを異なる時間軸で比較する問題があると考えられる。

B.同じ経済的動機があっても、見えている選択肢は同じなのか

投資先の損失を減らしたいという動機は、Apollo、Clearlake、Platinum Equityだけに存在するものではない。比較的穏健と評価されたGPも、回収可能な価値が残っていれば、その価値を守ろうとするはずである。

それでもGPによって行動が異なるとすれば、違いは動機の有無だけでは説明できない。

Apollo、Clearlake、Platinum Equityには、問題企業を扱ってきた長い経験がある。ただし、三社の専門性は同じではない。

Apolloはdistressed-to-controlを含むディストレスト投資、Clearlakeはspecial situationsや救済資金、Platinum Equityは業績不振企業のターンアラウンドを反復してきた。

三社の共通項は、単に債務契約やLMEに詳しいことではなく、「予定どおり進まなくなった企業の価値を、どう残すか」を投資として反復的に考えてきた経験にあるのではないか。

こうした経験があれば、経営難企業に直面した際、通常の借換えや追加出資だけでなく、資産売却、救済融資、債務交換、担保や債権順位の変更、通常の債務再編、Chapter 11、貸し手への支配権移転、撤退まで、複数の選択肢を比較しやすくなる可能性がある。

比較的穏健と評価されたGPにも、投資先の損失を減らしたいという動機はある。それでも、過去の経験、選択肢を認識・評価するコスト、実行能力、法務・交渉コスト、成功確率、将来の評判コストが異なれば、同じ強硬策の期待payoffも異なる。あるGPには合理的に見えるLMEが、別のGPには投入する資金・時間・評判コストに見合わない可能性がある。

もちろん、この違いをスポンサーの経験や能力だけで説明することはできない。Apollo、Clearlake、Platinum Equityは、もともと高レバレッジ企業や業績不振企業への投資も多く、LMEを検討する状況に遭遇する頻度自体が高い可能性がある。また、専用のディストレスト戦略やターンアラウンド経験が、個別企業のLMEを直接増やしたという証拠も今回の調査では確認できなかった。

それでも、同じ経済的動機があっても、「何が実行可能で、何が合理的に見えるか」は、GPが蓄積してきた経験や能力によって異なるのではないか。これは今回の事実関係から考えた筆者の仮説である。

C.能力があっても、なぜLMEを使わないことがあるのか

問題企業を扱う経験が豊富であっても、すべての案件で強硬なLMEが選ばれているわけではない。

Apollo傘下のHexionやLumiledsでは、再編を通じて旧スポンサー持分が消滅または支配権が貸し手へ移った。Platinum Equity傘下のPetmateでも、貸し手が全株式を取得した。

これらの案件で、スポンサーがどのようなLME案を検討し、なぜ採用しなかったのかを示す内部資料は確認できない。したがって、評判を守るために自主的に撤退したとも、協調的な文化を理由に持分消滅を受け入れたとも断定できない。

少なくとも、攻撃的と評価されるスポンサーにも、旧持分の消滅や貸し手への支配権移転を受け入れた案件がある。これは、LMEを実行できる経験や能力があることと、実際にその選択肢を行使することは別であることを示している。

残存する株式価値が小さい一方、追加資本、経営陣やGPの時間、法務・交渉費用を多く必要とするなら、強硬策の期待収益は低くなる。利用できる契約上の余地、貸し手の結束、取引の成功確率、訴訟リスク、将来の評判コストによっても判断は変わり得る。

したがって、スポンサーの「攻撃性」を、常に最も強硬な手段を選ぶ固定的な性格と捉えるのは適切ではない。LMEも一つの投資判断であり、回収できる価値に対して資金・時間・法的リスクを投入する価値があるかを、スポンサーも判断しているのではないか。

それでも、なぜ債権者は取引を続けるのか

A.攻撃的GPは、それでも重要な取引相手である

ここまで見てきたように、Apolloは、経営難の投資先で契約の「隙間」を強く利用するスポンサーとして認識されている。そうであれば、貸し手はApollo傘下企業への融資を避ければよいようにも思える。

しかし、大型GPとの関係を断つことにも経済的なコストがある。Apollo、Clearlake、Platinum Equityのような大型GPは、新規買収、追加買収、借換えなどを継続的に行う。銀行にとっては、融資だけでなく、引受、シンジケーション、借換えやその他の資本市場取引につながる相手である。ローンやプライベート・クレジットを運用する投資家にとっても、一定規模の投資機会を継続的に供給する取引相手となる。

もっとも、こうした手数料や将来の取引機会が、スポンサー固有のリスクと比較してどの程度の経済価値を持つのかは、今回の資料から定量的には確認できない。それでも、スポンサーにリスクがあるからといって、直ちにすべての取引を拒絶することだけが合理的な対応ではない。

スポンサーの評判と、個々の借り手の信用力も同じではない。攻撃的と評価されるGPの傘下企業が、すべて経営難に陥ったり、LMEを実施したりするわけではない。ApolloもFTに対し、傘下企業は競争的な条件で借り入れ、貸し手から幅広い支持を得ていると説明している。

貸し手は、個々の企業の事業、レバレッジ、担保、契約条件を審査したうえで、スポンサー固有のリスクも、金利、担保・保護条項、投資する債権の順位、ポジションサイズなどに反映することができる。

したがって、貸し手の選択は「貸すか、貸さないか」の二択ではない。攻撃的と評価されるGPでも重要な取引相手である以上、条件を変えながら取引を続けることにも合理性がある。

B.約100bpは、何への対価なのか

Matt Levineは、2026年9月8日付のBloomberg Opinionのコラムで“The Sponsor Premium”を取り上げ、論文が推計したのはApolloの「攻撃性」に伴う借入コストであって、LMEなどの強硬策によってApolloが実際にどれだけ投資先の価値を守れたのかではないと指摘している。

Apollo傘下企業について約100bp高い借入利回りが推計されたとしても、それだけでApolloにとってLMEが割に合わないとはいえない。重要なのは、追加的な借入コストと、危機時にLMEなどの選択肢を持つことでスポンサーが守れる価値との比較だからである。

Levineは、この選択肢を“optionality”と表現している。例えば、Apollo傘下企業の債務を仮に400億ドルと置けば、100bpの追加借入コストは年間約4億ドルになる。それでも、数年に一度のLMEなどによってその間に負担する追加借入コストを上回る価値を株主側に残せるのであれば、そのoptionalityへの対価としては割安だった可能性がある、という思考実験を示している。

スポンサーには、投資先が経営難に陥ったとき、資産移転、追加借入、債権順位の変更、債務交換などを検討できる契約上の選択肢がある。貸し手は融資時点で、将来スポンサーがどの選択肢を使うかを完全には予測できず、その可能性を契約だけで完全に排除することも難しい。

本稿も、Levineが示したoptionalityという見方は、約100bpの価格差を理解する一つの有力な方法だと考える。Levineのoptionalityという見方に沿って解釈すれば、スポンサー側から見た約100bpは、経営難になったときに契約上の選択肢を使えることに伴う追加的な借入コストであり、貸し手側から見れば、その可能性を引き受けることへの追加利回りと見ることができる。

いわば、危機時にスポンサーが契約上の選択肢を使う可能性に対して、平時から支払われる「オプション・プレミアム」のようなものである。

もちろん、“The Sponsor Premium”は、約100bpがLMEリスクそのものの価格だと実証したわけではない。推計された価格差には、論文が十分に捉えていない借り手やスポンサーの特性が含まれている可能性もある。また、約100bpの追加利回りが、将来発生し得るLMEの損失を十分に補償するかも分からない。

したがって、約100bpを厳密な意味での「LME保険料」と考えることはできない。それでも、貸し手はスポンサーの評判を知らずに融資しているのではなく、そのリスクの少なくとも一部を価格に織り込みながら取引を続けている可能性がある。

C.貸し続けていることは、無防備であることを意味しない

貸し手が利用できるのは、金利による価格調整だけではない。スポンサーや企業がLMEの手法を更新してきたのと同様に、貸し手側も、契約、組織化、訴訟、債務再編を通じて対応策を変えてきた。

案件 債権者側の対応 訴訟・法的対応 結果・現在
Caesars 資産・事業移転や親保証解除に反対 債権者が訴訟を起こし、破産手続では審査官による調査へ発展 審査官報告を経て大型和解が成立
Serta 順位引上げ取引から除外された少数派貸し手が対抗 少数派貸し手が取引の契約上の有効性を継続して争った 2024年の第5巡回区の判断を経て、2026年には約4億ドル規模の金銭的判断へ
Pluralsight 主要貸し手グループが再編交渉を主導し、新規資本も提供 訴訟よりも再編交渉が中心 債務を約75%削減し、主要貸し手が全株式を取得
Optimum 貸し手の大多数がLCAを締結し、会社側との個別交渉を制限 会社側がLCAそのものを反トラスト法で提訴 LCAやその後の取引を巡る争いが継続中

記事紹介で見たSertaは、貸し手側にも複数の対抗手段があることを分かりやすく示している。なお、SertaのスポンサーはAdvent Internationalであり、Apolloはこの案件ではスポンサー側ではなく、取引から除外された少数派貸し手側にいた。

2020年の取引から除外された少数派貸し手は、その契約上の有効性を争い続け、2024年の第5巡回区の判断と、2026年の約4億ドル規模の金銭的判断につなげた。LMEの実行時点で不利な立場に置かれたことが、そのまま最終的な経済損失を意味するとは限らない。貸し手には、契約解釈を裁判所で争い、事後的に救済を求める選択肢もある。

もちろん、訴訟だけが対抗手段ではない。

Pluralsightでは、主要貸し手グループが再編交渉を主導し、債務削減と新規資本の負担を引き受けたうえで、最終的にスポンサーから会社の支配権を取得した。Optimumでは、貸し手側が個別に切り崩されることを防ぐため、事前に貸し手協力契約(LCA)を締結した。その結束自体が会社側から反トラスト法で争われていることは、貸し手側の対抗策もまた、次の契約・訴訟上の攻防を生み出していることを示している。

さらに、過去のLMEを受けて、融資契約には資産移転や順位引上げを制限する新しい条項も加えられてきた。契約で事前に防ぐ。貸し手同士で結束する。実行された取引を裁判で争う。再編交渉を主導し、必要であれば新たな資本を提供して会社の支配権を取得する。

貸し続けていることは、スポンサーの行動を受け入れ、無防備でいることを意味しない。

Apolloのようなスポンサーと貸し手の関係は、強いGPが弱い債権者を一方的に利用するだけの構図ではない。スポンサーが新しい契約上の選択肢を探せば、貸し手もその経験を価格、次の融資契約、貸し手間の協力、訴訟や再編交渉へ反映する。

両者は、互いの行動を学習しながら取引を続けている――筆者にはそう見える。

若手金融マンへの示唆

プライベートファンドやクレジットに長く関わってきた筆者にとって、今回特に興味を引かれたのは、Apolloの「攻撃的」という評判そのものよりも、その評判とApollo傘下企業の借入コストとの関係を、実際のローンデータを使って学術的に分析した論文が出てきたことだった。

さらにFinancial TimesやMatt Levineが、この研究を単なる学術論文としてではなく、Apolloと貸し手の関係を考える材料として取り上げたことにも興味を持った。

そこで、Apolloをはじめとするスポンサーと債権者が、投資先企業が窮地に陥ったとき、実際にどのような行動を取ってきたのかを追ってみることにした。そうして調べて見えてきたのが、本稿で整理したLMEを巡るスポンサーと債権者の攻防である。

スポンサーが契約の「隙間」を探せば、貸し手も契約を変え、結束し、訴訟を起こす。超一流の金融プレイヤー同士が、それぞれの経済合理性に従って対応策を更新してきた過程そのものが、筆者には興味深かった。

そして、ここから先は筆者の推測である。

今回は主として、スポンサーという組織と債権者という組織の経済合理性を考えてきた。ただ、実務家としてもう一つ気になることがある。実際に意思決定するのは、組織ではなく、その中にいる個人でもある。

例えば、あるLMEによる将来の借入コスト上昇は、別のポートフォリオ企業や将来のファンドが負担する一方、目の前の案件で損失を減らし、価値を守った実績は、その案件を担当する投資担当者の評価、報酬、昇進などに、より直接的に影響する可能性がある。

今回の資料から、Apolloで実際にそうしたインセンティブが意思決定を左右したと確認することはできない。それでも、GP全体では合理的に見えない行動があるとすれば、組織のインセンティブだけでなく、その中で意思決定する個人の時間軸や利害まで考えてみる余地もあるのではないか。

知識ボックス

① 『The Sponsor Premium』は25社のPEスポンサーをどう比較したのか

Vince BuccolaとGreg Niniによる“The Sponsor Premium”は、Apolloだけを分析した研究ではない。2016年第3四半期から2025年第4四半期までに実行された、PEスポンサー傘下企業の第一順位タームローン1,889件を対象に、スポンサーによって借入利回りに差があるかを調べている。

研究では、格付け、業種、借入目的、市場環境などの違いを調整したうえで、「スポンサーが誰か」によってどの程度の借入利回り差が残るかを、主要スポンサーについて推計した。スポンサーごとの固定効果(sponsor fixed effects。それらの条件を調整した後に残る、スポンサーごとの利回り差)を加えると、ローン利回りを説明するモデルの説明力は79%から84%へ上昇した。

一方、著者らは、スポンサーが経営難の投資先で貸し手をどのように扱うと認識されているかについて、ChatGPT、Claude、Geminiの三つの大規模言語モデルに主要25社を評価させた。

各LLMには、各スポンサーを1(比較的協調的)から5(最も攻撃的)までの5段階で評価させるとともに、25社を1位から25位まで順位付けさせた。下表は、三つのLLMによる順位の平均を示している。

原論文の分類 スポンサー(LLM平均順位)
Top Madison Dearborn(4.0)、Genstar(4.3)、GTCR(4.7)、Stone Point(5.0)、Warburg Pincus(5.3)
Upper-middle Thoma Bravo(8.0)、Clayton Dubilier & Rice(8.0)、EQT(8.3)、American Securities(8.7)、Blackstone(9.0)
Lower-middle Bain Capital(11.7)、Goldman Sachs(11.7)、Hellman & Friedman(13.0)、Carlyle(13.3)、Centerbridge(14.7)、Vista Equity(15.3)、Ares(15.7)、Advent(16.3)、Leonard Green(16.3)、Brookfield(17.0)
Bottom TPG(21.3)、KKR(21.3)、Clearlake(23.7)、Platinum Equity(24.0)、Apollo(24.3)

論文の「攻撃的」は、違法性や経営者の人格を意味するものではなく、経営難の投資先で、貸し手に対して契約上の余地をどの程度強く利用すると認識されているかについての相対評価である。

Apollo、Platinum Equity、Clearlakeの三社には、三つのLLMすべてが最も攻撃的な「5」を付けた。また、この三社は、LLM評価とは別に作成されたLME集計(Covenant Reviewによるスポンサー別のLME実行件数の集計)でも、実行件数の上位三社だった。

ただし、評判順位と借入利回りの順位は同じではない。Apollo、Platinum Equity、Clearlakeは、評判順位ではそれぞれ25番目、24番目、23番目だった。一方、格付けや市場環境などを調整した後の借入利回り差では、Apolloが25社で最も大きく、Platinum Equityは3番目、Clearlakeは7番目に大きかった。

したがって、評判順位どおりに借入利回りが機械的に並んでいるわけではない。論文が示しているのは、スポンサーの評判・行動特性と借入利回りの間に一定の関係がある、ということである。

② LMEを巡る「契約の隙間」と債権者の対抗策

Caesars Entertainment

ApolloとTPG傘下のCaesarsでは、事業会社CEOCが約180億ドルの債務を抱えていた。第一順位・第二順位のノート保有者などが、複数の資産・事業移転や親保証の解除を争い、破産手続での審査官調査や大型和解へ発展した。Apolloが債権者を厳しく扱うという評判を形成した重要案件である。

J.Crew

TPGとLeonard Green傘下のJ.Crewは、当時約20億ドルの債務を抱え、タームローンの貸し手グループと対立していた。複数のバスケットを使って知的財産を非制限子会社へ移し、既存担保から外した資産を新たな資金調達に利用した(dropdown)。その後、J.Crew型防止条項が広がる契機となった。

Serta Simmons

Advent International傘下のSertaは、約24億ドルの第一・第二順位ローンを抱えていた。Barings、Invesco、Eaton Vanceなどの多数派貸し手が新たな最優先債権を取得する一方、Apollo、Angelo Gordon、Gamut Capitalなどの少数派貸し手は取引から除外された(uptier)。資産ではなく貸し手間の返済順位を動かした代表案件であり、その後の訴訟で約4億ドル規模の損害・利息が争われた。

Envision Healthcare

KKR傘下のEnvisionは、2022年のLME前後に70億ドルを超える規模の債務を抱えていた。Centerbridge、Angelo Gordonなども関与する新規資金調達の中で、AmSurg資産を既存債権団の外へ移すdropdownを行い、その後にはpriming/uptierも実施した。資産移転と順位変更を一連のLMEで組み合わせた点が重要である。

Pluralsight

Vista Equity Partners傘下のPluralsightでは、買収・統合を支えた約17億ドルのプライベート・クレジットを巡り、Blue Owl、Ares、BlackRockなどの主要貸し手と再編交渉になった。最終的に貸し手は債務の約75%、約13億ドルを削減し、新資金を投入して全株式を取得した。プライベート・クレジットでもスポンサーと貸し手のLME攻防が起こり得ることを示した案件である。

Optimum Communications

Patrick Drahiが支配するOptimumは、約250億~260億ドルの債務を抱えていた。Apollo、Ares、BlackRockなどの貸し手はLCAで個別の切崩しを防ごうとしたが、会社側はその結束を反トラスト法で争い、その後には資産移転と新たな優先債務による調達も進めた。貸し手側の組織化そのものが次の攻防対象になった案件であり、現在も係争中である。

年月・案件 企業・スポンサー側の手法 債権者への影響 債権者側の対応・その後
2013~2015年 

Caesars Entertainment

資産・事業のグループ内移転、組織再編、一部社債の親保証解除 返済原資として期待された資産・保証が切り離されたとして争われた 訴訟、破産手続での審査官調査を経て大型和解
2016~2017年 

J.Crew

複数のバスケットと非制限子会社を利用し、知的財産を既存担保から外して新規調達の担保に利用(dropdown) 既存貸し手の担保範囲が縮小 訴訟・和解。その後、J.Crew型防止条項が普及
2020年、

2024~2026年 

Serta Simmons

多数派貸し手だけに新たな最優先債権を与える順位引上げ取引(uptier) 少数派貸し手が相対的に劣後 訴訟。2024年・2026年に多数派側へ不利な司法判断
2022年 

Envision Healthcare

資産移転(dropdown)と、その後の優先順位引上げ(priming/uptier)を含む複数のLME 既存貸し手の担保価値・順位に影響 貸し手が法的対応を検討。後続取引も含め争いが継続
2023~2024年 Pluralsight Vistaによる追加融資、知的財産の担保取得、一部資産の移動 主要貸し手との再編交渉へ発展 債務約75%削減、新資金投入、主要貸し手が全株式取得
2024~2026年 Optimum Communications 貸し手協力契約(LCA)への反トラスト訴訟、資産移転、新たな優先債務調達 会社側と貸し手側の交渉・市場アクセスを巡る対立 貸し手はLCAで結束。LCA自体も訴訟対象となり係争中

③ 攻撃的GP3社は、問題企業をどう投資対象としてきたのか

“The Sponsor Premium”で最も攻撃的な側に位置したApollo、Platinum Equity、Clearlakeには、予定どおりに進まなくなった企業を投資対象として反復してきた経験がある。

ただし、三社の専門性は同じではない。Apolloはディストレスト債権と支配権、Clearlakeは資本構成を横断するspecial situations、Platinum Equityは業績不振企業の事業再生を中心としてきた。

スポンサー 問題企業に関する主な専門経験 問題企業に関する主な専門経験|

戦略・組織上の特徴

Apollo ディストレスト債権、distressed-to-control、破産・私的整理を通じた債務株式化、バランスシート再構築 1990年代から、値下がりした債務を取得し、再編を通じて株式・支配権へ転換する投資を反復。初期案件にはVail Resorts、Walter Industries、Culligan、Samsoniteなどがある。その後も複数の市場サイクルでディストレスト戦略を継続した
Clearlake special situations、ディストレスト投資、救済・機会投資、債務・優先株式・普通株式を横断する資本提供 2006年の創業期から、special situationsを手掛け、専用ファンドは少なくとも2016年から市場環境に応じ、buyoutとディストレスト/special situationsを横断。Clearlake Opportunities Partnersは、COP Iが約6億ドル、COP IIが14億ドル、COP IIIが25億ドルと、複数世代の専用戦略として確認できる
Platinum Equity 業績不振企業、管理不足の企業、大企業から切り出された事業の買収とオペレーショナル・ターンアラウンド 1995年の創業時からディストレスト債権への投資ではなく、問題を抱える事業を株式支配下に置き、運営改善によって価値を回復させる手法が中心。2016年までに、プラットフォーム投資と追加買収を合わせて188件の反復実績が確認されている
Madison Dearborn 業種を絞ったbuyout、growth equity、通常の事業運営・M&A支援 1992年からbuyout投資を継続。豊富な投資・事業運営経験は確認できるが、ディストレスト債権、special situations、業績不振企業のターンアラウンドを中核とする専用戦略やファンド系列は、今回確認した公開資料では特定できなかった
Thoma Bravo ソフトウェア企業のbuyout、利益率改善、製品戦略、追加買収を通じた事業変革 ソフトウェア特化戦略を長期間継続。ソフトウェア企業の運営改善には反復実績がある。RiverbedやMedalliaなどの問題案件も経験したが、ディストレスト/ターンアラウンド企業への投資を入口とする専用戦略の反復性は、今回確認した公開資料では限定的だった

Madison DearbornやThoma Bravoについて、問題企業を処理する能力がないことが確認されたわけではない。非公開での対応実績が外部から見えない可能性もあり、個別の問題案件を処理できないという意味でもない。

公開資料から確認できる違いは、Apollo、Clearlake、Platinum Equityでは、予定どおり進まない企業を投資対象とする戦略が、主要なLME案件より前から、複数年または複数のファンドにわたって反復されていたことである。

もっとも、その経験が個別のLMEを生み出したことや、各社の専門人材がポートフォリオ企業のLMEを直接設計したことまでは確認されていない。公開資料から確認できる三社の共通点は、同一の金融再編技術ではなく、問題を抱えた企業の価値回復を、異なる手法で反復的に投資対象としてきたことである。

(編集部より)   

あわせて読むと理解が深まる記事

参照記事

2026年9月8日 Financial Times

“’Apollo premium’ drives up debt costs for private equity giant’s portfolio companies”

Security Verification

 

2026年7月7日 The Wall Street Journal

“Serta Lenders Win $400 Million Award Over Rival Group’s Debt Deal”

wsj.com

※本稿は、米国の金融コラム・業界記事を素材に、背景となる考え方や論点を整理することを目的とした考察です。本文中で紹介している参照記事には、有料媒体のものも含まれています。   本稿は生成AIを活用して下書き・構成整理を行い、筆者が検証・加筆修正の上で公開しています。