―機関投資家は、どこに合理性を見出している?
プライベート市場(Private Markets)ではここ数年、富裕層の資金を取り込むための商品開発が急速に進んできた。その代表例の一つが、ファンドの満期を原則として定めず、継続的に資金を受け入れながら運用するエバーグリーンファンドである。
従来、個人投資家がプライベート・エクイティ(Private Equity、PE)へ投資しようとすれば、高い最低投資額、10年前後の長い運用期間、資金拠出(capital call)への対応など、いくつものハードルがあった。これに対してエバーグリーンファンドでは、定期的に新規投資を受け入れ、NAVを基準に投資でき、制限付きながら換金請求の機会も設けられる。富裕層向け市場で商品が広がったのは、それほど不思議ではない。
ところが2026年8月、Financial Times(FT)は、BlackstoneやKKRが富裕層向け市場で拡大してきたエバーグリーンファンドへ、年金や大学基金(endowment)などの機関投資家も資金を入れ始めていると報じた。Blackstoneではまだ全体の「ごく一部」にとどまるというが、KKRはPE、クレジット、インフラのエバーグリーンファンドに機関投資家を意識した新しいシェアクラスまで導入している。
そのエバーグリーンファンドへ、これまで伝統的なPEファンドへ直接投資してきた機関投資家も入り始めている。
なぜ、これまで伝統的なPEファンドを中心に投資してきた機関投資家が、富裕層向け市場で開発・成長してきたPEエバーグリーンファンドに着目し、投資を始めているのか。
今回は、この点を考えてみたい。
記事紹介
Financial Timesは2026年8月26日、”Institutional investors back Blackstone and KKR funds for wealthy individuals”と題した記事を掲載した。
記事によれば、BlackstoneやKKRが富裕層向け市場で拡大してきたエバーグリーンファンドへ、年金や大学基金などの機関投資家も資金を投じ始めている。
Blackstoneで富裕層向け事業を率いるJoan Solotar氏は、同社の富裕層向けエバーグリーンファンドに占める機関投資家の資金はまだ「ごく一部」だと説明する。一方で、過去1年間で機関投資家からの関心は高まっており、「今後も進化し、拡大し続けるだろう」と述べている。
KKRでも同様の動きがある。同社で顧客ソリューションを率いるEric Mogelof氏は、バイアウト、クレジット、インフラのエバーグリーンファンドに機関投資家向けの新しいシェアクラスを設けたと説明している。その背景には、機関投資家からの「高まる需要」があるという。
ただし、FTは機関投資家がプライベート市場への投資を一様に増やしているとは書いていない。 多くの機関投資家は、PE運用会社が投資先の売却やLPへの現金還元に苦戦している現状を踏まえ、PEへの新たな資金拠出には慎重な姿勢を続けている。
その中でNewEdge WealthのPatrick Dwyer氏は、競争激化によって多くのPEファンドのリターンが市場全体に近いものとなり、PEの「コモディティ化」が進めば、機関投資家が、定期的な換金機会を持ち、手数料も低いエバーグリーンファンドを選ぶようになる可能性があると述べている。
FTは、伝統的なファンドとエバーグリーンファンドの資金管理の違いにも触れている。 伝統的なファンドでは、LPは最初に投資額を約束し、GPから資金拠出を求められるまで、その資金を自ら管理する。一方、エバーグリーンファンドでは原則として投資時に資金を拠出するため、投資家側のキャッシュフロー管理を簡素化できる。
FTは、その利便性にはコストもあると説明している。 エバーグリーンファンドは換金請求に備えて一定の流動性を確保しておく必要があるため、一般にファンド全体のリターンは低くなる傾向があるとFTは説明している。
Bain & CompanyのHugh MacArthur氏は、こうした利便性について、機関投資家も個人投資家と同じものを求めるようになる可能性があると指摘する。
一方、Solotar氏は、大規模な機関投資家で、複雑なキャッシュフローを管理する人員を持つ場合には、引き続き伝統的なファンドを選ぶ可能性があると説明している。また、伝統的なファンドとエバーグリーンファンドの双方へ投資する機関投資家もいるという。FTは英国のUniversities Superannuation Scheme(USS)をその例として挙げている。
FTは、この動きについて、PE業界の「伝統的な10年型ファンドモデル」を最終的に揺るがす可能性がある、と位置づけている。
一方、PEエバーグリーンの商品性を別の角度から取り上げたのが、The Wall Street JournalのJonathan Weil氏による2026年6月28日の”How Some Private-Equity Managers Collect Big Fees on Paper Gains”である。
Weil氏が詳しく紹介したStepStone GroupのPrivate Venture and Growth Fund、通称Springは、2026年3月期に約43%のリターンを計上した。しかし、純未実現評価益が約18億7,000万ドルだった一方、純実現益は約300万ドルにとどまった。それでも、成功報酬として約2億7,130万ドルが計上された。
WSJが注目したのは、富裕層向けの半流動型PE商品では、投資先が実際に売却される前の未実現評価益も、成功報酬の計算に影響し得るという点である。
Weil氏は、これは半流動型(semi-liquid)の商品構造と関係していると説明する。
Springは毎月新しい資金を受け入れながら、四半期ごとに換金機会を設けている。そのため、投資家が加入・退出する際の公平性を保つには、未売却の非上場資産も継続的にNAVへ反映する必要がある。一方、伝統的な機関投資家向けPEファンドでは、成功報酬は通常、投資先を実際に売却した後に発生するとWSJは説明している。
また、Springの四半期ごとの換金にも、発行済み持分の2.5%という上限がある。
同記事ではKKRのKKR Private Equity Conglomerate LLC(K-PEC)も取り上げている。K-PECは2025年に約12億ドルの未実現評価益を計上した一方、純実現損失は約2,790万ドルだった。それでも、約2億320万ドルの成功報酬を計上したとWSJは報じている。
WSJは、半流動型PEでは、NAV評価、未実現評価益と成功報酬、換金制度が互いに結び付いていることを具体的なファンドの数字から示している。
「エバーグリーン」と一括りにせず、PEエバーグリーンを見る
A.「エバーグリーン」は一つの資産クラスではない
ここで最初に整理しておきたいのは、「エバーグリーン」は一つの資産クラスではないという点である。
同じエバーグリーンという言葉の下には、プライベートクレジット、PE、インフラ、不動産など、異なる運用戦略が存在する。エバーグリーンとは投資対象そのものではなく、満期を原則として定めず、継続的に資金を受け入れながら運用するファンド構造を表している。
この違いは、現在のニュースを読むうえで重要である。
2026年に大規模な換金請求や換金待ちが話題となったのは、Blue OwlやBlackstoneなどが運用するプライベートクレジット系の非上場BDCなどである。一方、本稿で見るKKRのK-PECやBlackstone Private Equity Strategies Fund(BXPE)は、PEへの投資を中心とする商品である。
K-PECはPEの投資先企業への投資を中心とし、BXPEも原則としてNAVの80%以上をBlackstoneが定義するPE投資(Private Equity Investments)へ投資する。両商品とも、換金や新規投資に備えるため一定の流動性資産を保有できる設計になっている。
K-PECとBXPEの投資対象、流動性資産、換金条件、手数料などの詳細は、末尾の知識ボックスで整理している。
FTがプライベートクレジット、PE、インフラという複数のエバーグリーンを一つの記事で扱っていること自体に問題があるわけではない。ただ、FTが投げかけた「伝統的な10年型PEファンドは変わるのか」という問いを考えやすくするため、本稿ではここからプライベートクレジットやインフラとはいったん分け、PEエバーグリーンに焦点を当てたい。
同じ「エバーグリーン」という言葉でも、プライベートクレジットの換金問題と、機関投資家によるPEエバーグリーンへの投資は、分けて考えた方が構造を理解しやすい。
B.大口投資と換金制約を受け入れると、管理報酬は下がる
PEエバーグリーンに機関投資家が入る際の商品条件を見ると、一つ興味深い特徴がある。
BXPEでは、従来のClass I-Series Iの管理報酬は年間1.25%である。これに対し、2026年に新設されたSeries IIは最低投資額5,000万ドルで管理報酬1.05%、Series IIIは最低投資額2億5,000万ドルで0.95%となっている。
ただし、低い管理報酬だけを受け取れるわけではない。新しいSeries IIとIIIには最低保有期間が設定され、通常の換金条件に加えて追加の換金制約も課される。
KKRのK-PECでも同じ方向の設計が採られている。従来のI-Series 1の管理報酬は1.25%だが、新しいSeries 2は1.15%、Series 3は1.00%、Series 4は0.95%となる。一方、新しいSeriesには従来よりも高い最低投資額、最低保有期間、追加の換金制約が設定される。
しかも、BXPE、K-PECとも、従来のClass Iですでに販売・サービス手数料はかからない。したがって、新しい機関投資家向けシリーズの手数料低下は、単に富裕層向けの仲介手数料を取り除いた結果ではない。
機関投資家向けシリーズでは、大口投資と追加的な換金制約に、低い管理報酬が組み合わされている。
もちろん、管理報酬の差をすべて「資金の安定性への対価」と考えることはできない。大口投資家であれば、GP側の資金調達や投資家対応にかかるコストも下がり得るからである。
そのうえで、BlackstoneとKKRの双方が、より高い最低投資額と厳しい換金制約を、より低い管理報酬と組み合わせている商品設計を見ると、GPが大口で長期性の高い資金に一定の価値を置いているようには見える。
C.資金管理をファンド側へ移すと、PEへの配分も維持しやすくなる
機関投資家にとっての違いは、手数料だけではない。
FTは、伝統的なファンドではLPが資金拠出までの資金を自ら管理する必要がある一方、エバーグリーンでは投資時に資金を拠出するため、投資家側のキャッシュフロー管理を簡素化できると説明している。
Hamilton Laneも、クローズドエンド型ファンドでは投資家自身が資金拠出と分配を管理するのに対し、エバーグリーンではGPがファンド全体でキャッシュフローと資産配分を管理すると説明している。同社では、エバーグリーンファンドのポートフォリオ構築と流動性管理に60人超を配置しているという。
両者の一般的な資金の流れを整理すると、次のようになる。
| 項目 | 伝統的なPEファンド | PEエバーグリーン |
| 投資 開始時 | LPはまず投資額を約束し、GPから資金拠出を求められるたびに資金を拠出する | 投資家は原則として投資時に資金を拠出し、NAVを基準に既存ポートフォリオへ参加する |
| 投資期間中の資金管理 | LPが未拠出資金を管理し、将来の資金拠出に備える | GPが新規資金、投資、回収資金、換金請求などをファンド全体で管理する |
| 投資先から戻った資金 | 売却などで回収した資金は原則としてLPへ分配され、LPがその後の再投資を管理する | 回収資金は通常ファンド内で次の投資へ再投資される |
| PEへの配分維持 | LPが新しいファンドへの投資約束や再投資の時期を管理する | 一つのファンド内で投資と再投資が続くため、配分を継続的に維持しやすい |
| 投資家側の換金 | 基本的にはGPによる投資先の売却と分配を待つ | 定期的に換金請求できるが、上限、按分、停止などの制約がある |
エバーグリーンで資金管理が不要になるのではない。LPが個別に担ってきた管理の一部を、ファンド側へ移している。
この違いは、PEへの配分維持にもつながる。伝統的なPEでは、分配を受け取った後、LPが次のファンドへの投資や再投資を管理する必要がある。PEエバーグリーンでは、回収資金をファンド内で再投資できるため、配分を継続的に維持しやすい。
San Antonio Fire and Police Pension Fundでは、プライベートクレジットの事例ではあるが、既存ファンドから戻る元本をエバーグリーンへ再投資し、既存配分を継続する仕組みを採用している。
資金管理の一部をファンド側へ移すことで、PEへの配分も継続的に維持しやすくなる。
これは、機関投資家に資金拠出を管理する能力がないという話ではない。PEへ投資できる能力があることと、資金拠出や分配のタイミングを自ら管理し続けることに実務的なコストがないことは、同じではない。
GPは、なぜ機関投資家にもPEエバーグリーンの門戸を広げるのか?
A.GPにとってエバーグリーンを増やす経済的な理由がある
Blackstoneでは、エバーグリーンを含む永久資本(perpetual capital)の運用資産残高(AUM)が2026年6月末に約5,556億ドルまで拡大している。KKRでも永久資本は3,340億ドルに達し、PE、クレジット、インフラなどを含むK-SeriesのAUMは、前年の250億ドルから420億ドルへ増加した。
伝統的なPEファンドには運用期間があり、投資先の売却が進めば資金はLPへ返っていく。一方、エバーグリーンのように満期を原則として設けない商品では、投資家からの資金が換金されない限り、長期にわたってAUMとして残り得る。そのAUMは、GPにとって継続的な管理報酬の基盤にもなる。
GPにとって、エバーグリーンを拡大することには、長期的なAUMと継続的な管理報酬という経済的な理由がある。
B.それでも、伝統的なPEファンドをやめてはいない
一方で、大手GPがエバーグリーンへ全面的に移行しているわけではない。
Blackstoneはエバーグリーンを拡大する一方、2026年6月には伝統的なクローズドエンド型のBlackstone Capital Partners Asia IIIを131億ドルで最終クローズした。前号ファンドの2倍を超える規模である。
KKRでも、エバーグリーンを含むK-Seriesを拡大する一方、North America Fund XIVなど伝統的なPEファンドへの資金調達を続けている。
FTによれば、Blackstoneのエバーグリーンに入る機関投資家の資金は、現時点ではまだ全体の「ごく一部」にとどまる。
BlackstoneのJoan Solotar氏もFTに対し、複雑なキャッシュフローを管理する人員を持つ大規模な機関投資家は、引き続き伝統的なファンドを選ぶ可能性があると説明している。FTは、伝統的なファンドとエバーグリーンの両方へ投資している機関投資家も紹介している。
大手GPはエバーグリーンを拡大する一方で、伝統的なPEファンドによる機関投資家からの資金調達も続けている。
つまり現時点で確認できるのは、一方の商品から他方へ単純に資金が移っている姿ではない。
むしろBlackstoneやKKRは、伝統的なPEファンドを維持しながら、PEエバーグリーンにも機関投資家向けのシェアクラスを設けている。
C.では、なぜ機関投資家にも門戸を広げるのか
BlackstoneやKKR自身が、既存LPとの関係維持を理由としてエバーグリーンを拡大していると説明しているわけではない。ここから先は、これまでの動きからの筆者推論である。
BlackstoneやKKRは、伝統的なPEファンドによる機関投資家からの資金調達を続けながら、エバーグリーンを拡大し、そこにも機関投資家向けのシェアクラスを設けている。
すべての機関投資家が同じ商品を求めるわけではない。伝統的なPEファンドのキャッシュフローを自ら管理し、その構造を選ぶ投資家もいれば、前章で見たように、管理報酬、資金管理、配分維持、換金条件の違いに価値を感じる投資家もいる。
そう考えると、GPにとっても、伝統的なPEファンドだけでなく、異なる手数料や資金管理、換金条件を求める機関投資家にPEエバーグリーンという別の選択肢を用意する方が合理的なのではないか。
現時点で見えているのは、伝統的なPEファンドからPEエバーグリーンへの置き換えというより、両者の併存と使い分けが進んでいる姿ではないか。
なぜ今、機関投資家にとってPEエバーグリーンなのか?
A.PEの売却は回復したが、現金分配は遅れている
ここまで見てきた管理報酬、資金管理、配分維持は、PEエバーグリーンの商品構造そのものから比較的確認しやすい合理性だった。
それだけでは、なぜ今、機関投資家がエバーグリーンへ関心を持ち始めているのかは十分に説明できない。
現在のPE市場を見ると、売却自体は回復基調にある。2025年には世界のPE投資先の売却額が前年比40%超増加した。一方で、売却待ちの企業が解消されたわけではなく、2025年末時点では買収後4年以上経過したPE投資先企業が1万6,000社を超えている。
売却市場は回復しつつあるものの、ポートフォリオ全体から現金が以前と同じ速度で戻る状態にまでは戻っていない。2025年6月までの12カ月間のPEからの分配はAUMの約6%で、2015~19年平均の16%を大きく下回った。5年間のDPI/AUMも過去最低水準まで低下している。
PEへの投資意欲とは別に、既存投資から現金が戻るまでの時間は長くなっている。
一方、2026年の調査では約70%のLPがPEへの配分を維持または増加させる予定とされている。PEへの投資そのものをやめたいわけではないが、現金分配の回復は遅れている、という状況と考えられる。
B.PEエバーグリーンには換金制度はあるが、制約もある
PEエバーグリーンには、投資家自身が定期的に換金請求を出せる仕組みがある。
しかし、K-PECは原則として四半期ごとにNAVの5%、BXPEは3%というファンド全体の換金上限を設けている。換金請求が上限を超えれば按分され、運用会社や取締役会には換金を減額・停止する余地もある。機関投資家向けの新しいシリーズには、その上に最低保有期間や追加の換金制約まで設定されている。
したがって、PEエバーグリーンを「流動性のあるPE」と単純に考えることはできない。 半流動型(semi-liquid)とは、「いつでも希望額を換金できる」という意味ではない。
さらに、換金請求と、伝統的なPEファンドにおける投資先の売却による分配は経済的に別物である。伝統的なファンドで投資先企業を売却し、その現金をLPへ返せば、そのファンドの実現が進みDPIが上昇する。
PEエバーグリーンで投資家が換金を受ける場合、投資先企業が売却されたとは限らない。ファンドが現金や流動性資産、新規流入資金、借入れ、必要に応じた資産売却などによって投資家の持分を買い戻している。
PEエバーグリーンでの換金は、投資先企業の売却による分配とは別物である。
もう一つ、PEエバーグリーンではNAVの役割にも注意が必要である。
NAV評価自体は、伝統的なPEファンドでも重要である。非上場の投資先企業を保有する以上、定期的な公正価値評価はどちらのファンドでも行われる。
ただしPEエバーグリーンでは、そのNAVが単なる投資家向けの報告やポートフォリオ評価だけでなく、新しい投資家が入る価格や、既存投資家が換金する価格として直接使われる。まだ売却していない非上場資産の評価額が、投資家の加入・退出価格にも影響するのである。
さらに商品によっては、このNAV上の未実現評価益が成功報酬の計算にも影響し得る。
WSJが取り上げたのは、この点である。半流動型PEでは、まだ売却していない投資先の評価益が成功報酬の計算に影響し得る。
記事紹介で紹介したStepStoneのSpringでは、2026年3月期のリターンの大部分が未実現評価益だった一方、多額の成功報酬が計上された。K-PECやBXPEも個別の計算方法は同一ではないものの、NAVを基礎としたトータルリターン(Total Return)が成功報酬に影響する仕組みを持つ。
したがってPEエバーグリーンでは、限定的な換金機会を得る一方で、換金上限や停止の可能性だけでなく、NAVを基準とした加入・換金価格や、未実現評価益と成功報酬の関係も投資家が受け入れる経済条件の一部になる。
C.それでも、自ら換金を求められる選択肢に価値がある?
ここからは、今回の事実確認と分析を踏まえた筆者の推察である。
PEへの投資そのものは続けたい。一方で、投資先企業の売却は以前より長期化し、現金分配が戻る時期をLP自身では決められない。
伝統的なPEファンドでは、一度投資約束をした後の資金回収は、基本的にはGPがいつ投資先企業を売却するかに依存する。
もちろん、LP持分をセカンダリー市場で売却する方法もある。ただし、ファンド自身がNAVを基準に定期的な換金機会を設ける仕組みとは異なり、買い手、価格、譲渡承認などに左右される。
これに対してPEエバーグリーンでも自由な換金はできないが、少なくとも投資家自身が換金請求を出すことはできる。
PEエバーグリーンはDPI問題を解決しない。それでも、資金回収をGPによる売却だけに依存しない選択肢にはなり得る。
売却が順調で、伝統的なPEファンドから定期的に分配が戻ってくる時期であれば、この選択肢の価値はそれほど大きくないかもしれない。
しかし売却が遅れ、DPIが低位にとどまる期間が長くなれば、保証されてはいなくても、自ら換金を求められる選択肢に以前より価値を感じる機関投資家がいても不思議ではない。
しかも、BlackstoneやKKRの新しい機関投資家向けシリーズを見ると、機関投資家は従来のClass Iと同じだけの換金可能性を求めているわけでもない。
むしろ最低保有期間や追加の換金制約を受け入れ、その代わり管理報酬を下げている。
伝統的なPEファンドのように、拠出後の資金回収を主としてGPによる投資先の売却と分配に委ねる必要はない。しかし、富裕層投資家と同じ換金条件も必要ない。
機関投資家が求めているのは、最大限の流動性ではなく、「必要な程度の流動性」なのかもしれない。
そうした制約や経済的な懸念があっても、管理報酬、資金管理、配分維持、限定的な換金機会を含めて考えれば、現在の投資環境ではPEエバーグリーンに価値を感じる機関投資家が出てきても不思議ではない。
機関投資家も、投資環境の変化に対応する一つの選択肢として、PEエバーグリーンが持つトレードオフを受け入れ始めているのではないだろうか。
若手金融マンへの示唆 ――記事が前提としている仕組みを確認すると、ニュースの見え方が変わる?
今回のFT記事は、富裕層向け市場で成長してきたエバーグリーンファンドへ、機関投資家も入り始めたというニュースだった。
ただ、その意味を考えるには、「エバーグリーンは一つの資産クラスではない」「伝統的なPEでは資金拠出と分配を誰が管理しているのか」「換金と投資先企業の売却による分配は何が違うのか」「NAVはどのような役割を持つのか」といった、記事では必ずしも詳しく説明されない前提を確認する必要があった。
海外の金融記事では、読者がこうした商品構造や市場慣行をある程度理解していることを前提に、ニュースだけが先へ進むことがある。
ニュースそのものを追うだけでなく、記事が前提としている商品構造や市場慣行を一度確認してから記事へ戻ると、同じニュースでも見え方が変わることがある。
知識ボックス
KKR K-PECとBlackstone BXPE ――PEエバーグリーンの商品性
| 項目 | KKR Private Equity Conglomerate(K-PEC) | Blackstone Private Equity Strategies Fund(BXPE) |
| 主な投資対象 | KKRのPEプラットフォームを通じた投資先企業への投資等 | BlackstoneのPEプラットフォームを通じたPE投資 |
| 主なPE戦略 | 企業向けPEを中心とする投資先企業への投資等 | 企業向けPE、グロース、セカンダリー、Hybrid Capital、ライフサイエンス等 |
| PE投資/流動性資産等の目安 | 流動性ポートフォリオ(Liquidity Portfolio)を最大20%程度保有する方針 | 原則NAVの80%以上をPE投資、最大20%を流動性の高い債券等 |
| 通常Class Iの管理報酬 | I-Series 1:1.25% | I-Series I:1.25% |
| 機関投資家向けシリーズの管理報酬 | Series 2:1.15%/Series 3:1.00%/Series 4:0.95% | Series II:1.05%/Series III:0.95% |
| 最低投資額 | 新シリーズはSeries 1より高額。具体額は公開8-Kでは非開示 | Series II:5,000万ドル/Series III:2億5,000万ドル |
| 通常の換金上限 | 原則四半期ごと、ファンド全体のNAVの最大5% | 原則四半期ごと、発行済み持分の最大3% |
| 早期換金時の手数料・控除 | 発行後24カ月以内は原則5%の早期換金手数料 | 2年未満は原則5%の早期換金控除 |
| 機関投資家向けの追加制約 | 最低保有期間+追加の換金制限。具体条件は公開資料では非開示 | 最低保有期間+追加の換金制限。具体条件は公開資料では非開示 |
| 定期分配方針 | 定期分配は予定していない。実施する場合は原則として自動再投資制度(DRIP)で再投資し、現金受取りも選択可 | 現時点で定期分配を予定していない。将来実施する場合はGP判断 |
| 販売・サービス手数料 | Class Iシリーズ:原則なし | Class Iシリーズ:なし |
| 成功報酬 | トータルリターンの15% | トータルリターンの12.5% |
| ハードルレート | 年5%、ハイウォーターマーク、100%キャッチアップ | 年5%、ハイウォーターマーク、100%キャッチアップ |
Hybrid Capitalとは
BXPEのHybrid Capitalは、通常の普通株式だけを指すものではない。優先株式、ストラクチャード・エクイティ、転換社債など、株式と債務の中間に位置する資本ソリューションを含む戦略である。
また、K-PECやBXPEを、継続ファンド(Continuation Fund)やセカンダリー投資を主体とした商品と捉えるのは適切ではない。K-PECは投資先企業への投資が中心であり、BXPEも企業向けPE、グロース、セカンダリー、Hybrid Capital、ライフサイエンスなどBlackstoneの幅広いPE戦略を組み合わせる設計となっている。
なお、上表の管理報酬だけを伝統的なクローズドエンド型PEファンドと単純比較することはできない。伝統的なファンドでは投資約束額や投資済み資本が報酬計算の基準となることが多い一方、K-PECやBXPEではNAVが管理報酬の計算基準となる。キャリーや成功報酬、ハードルレート、投資戦略、換金権も異なるため、表面的な管理報酬率だけで「PEエバーグリーンの方が安い」と結論づけることはできない。
(編集部より)
あわせて読むと理解が深まる記事
参照記事
2026年8月26日 Financial Times
“Institutional investors back Blackstone and KKR funds for wealthy individuals”
2026年6月28日 The Wall Street Journal
“How Some Private-Equity Managers Collect Big Fees on Paper Gains”
※本稿は、米国の金融コラム・業界記事を素材に、背景となる考え方や論点を整理することを目的とした考察です。本文中で紹介している参照記事には、有料媒体のものも含まれています。 本稿は生成AIを活用して下書き・構成整理を行い、筆者が検証・加筆修正の上で公開しています。
