廃校の住宅転用は、米国でなぜ可能なのか?

チャーター校、学校財政、税額控除から見る廃校転用

Wall Street Journalで、米国各地の廃校が住宅へ転用されているという記事を読み、少し不思議に感じた。学校として使われなくなった建物を、住宅として再利用する。地域に残された建物を壊さず、新しい用途を与えるという点では、分かりやすい話にも思える。

しかし、廃校となった建物は、必ずしも状態のよい不動産ではない。築100年を超える校舎も多く、長年放置されていれば、電気や配管、空調設備の更新だけでなく、アスベストや鉛の除去も必要になる。体育館、講堂、食堂、幅の広い廊下など、住宅として家賃を生みにくい空間も少なくない。しかも、Wall Street Journalが紹介していた転用事例の多くは、高級住宅ではなく、家賃が制限されたアフォーダブル住宅や高齢者向け住宅だった。多額の改修費がかかり、家賃にも制限がある。それにもかかわらず、開発業者は廃校を取得し、数千万ドルを投じて住宅へ転用している。

一方で、そもそも、なぜ米国ではこれほど多くの学校が使われなくなっているのだろうか。人口や産業が縮小した地域で学校が余ることは理解しやすい。しかし記事では、Austinのように人口と経済が成長している都市でも、公立学校が閉鎖され、住宅への転用が進んでいることが紹介されていた。

学校として維持できなくなった建物を、なぜ民間の開発業者は住宅として再生できるのか。   本稿では、Wall Street Journalの記事を素材に、米国で進む廃校の住宅転用について考えてみたい。

記事紹介――全米で増える廃校の住宅転用

Wall Street Journalは2026年7月、“A New Wellspring for Apartment Conversions: Century-Old Schoolhouses”と題した記事を掲載した。                       記事の冒頭に登場するのは、マサチューセッツ州SouthbridgeにあるResidences at Wells Schoolで暮らすMichele Cloutier氏である。1970年代に同じ建物へ中学生として通っていたCloutier氏にとって、現在の住まいはかつての美術室である。作品を乾かしていた大きな窓は、いまでは自宅のリビングに光を取り込んでいる。ドッジボールをしていた体育館は、住民が集まるコミュニティセンターになった。

Wells Schoolは2022年、62戸の家賃規制付きアパートに転用された。記事によれば、全米では、使われなくなった公立学校を住宅へ転用する案件が増えている。             住宅情報サイトRentCafeの調査では、2024年に旧学校から生まれたアパートは約2,000戸に達し、前年の約4倍となった。学校はこの年、転用元となる建物のなかで最も高い伸びを示したという。                                          さらに2026年初めには、学校からアパートへの転用案件9,320戸が開発パイプラインに入っていた。2024年初めの7,710戸から約21%増えている

WSJは、出生率の低下や、私立校・チャーター校を選ぶ家庭の増加によって公立学校の在籍者数が減り、Philadelphia、Miami、Houstonなど各地で学校閉鎖が進んでいると伝えている。    人口と経済の成長で知られるTexas州Austinでは、2025-26学年度末に10校が閉鎖され、そのうち3物件について、売却または長期の土地賃貸が承認された。学区担当者によれば、これらの物件は住宅になる可能性が高いという。

WSJによれば、教室はアパートの住戸に近い大きさを持つ。学校は地域の中心部に位置し、駐車場を備えていることも多い。大きな窓、高い天井、幅の広い廊下や階段も、学校建築に多く見られる特徴として挙げられている。                               一方、古い学校の住宅転用には、機械設備や電気設備の交換、階段や窓の現行基準への適合、アスベストや鉛の除去などが必要になる。体育館、食堂、講堂など、改修費がかかる一方で、住戸としては使いにくい空間も残ると記事は伝えている。

South Carolina州CharlestonのArcher School Apartmentsは、総事業費が4,000万ドルを超えた。同案件には、連邦と州の低所得者向け住宅税額控除から2,440万ドルのエクイティが入り、州の放棄建物税額控除から200万ドル、郡から200万ドル、市から450万ドルの返済免除可能ローンが供給されたとWSJは伝えている。

公立学校は、なぜ生徒と予算を失うのか

廃校が生まれる理由として、まず思い浮かぶのは人口減少である。子どもの数が減れば、地域に必要な学校数も減る。                                   ただし、WSJが挙げたPhiladelphia、Miami、Houston、Austinは、いずれも単純な「過疎の町」として片づけられる都市ではない。人口が増えている都市であっても、住宅価格や家賃の上昇によって、子育て世帯が中心部から離れることがある。中心部に残る高所得世帯には、私立校やプレップスクールを選ぶ余地もある。                              公立学校の生徒が減るのは、地域から子どもが消える場合だけではない。同じ地域に住む家庭が、別の学校を選ぶことでも起きる。

A 抽選制のチャーター校は、なぜ家庭を引きつけるのか

米国のチャーター校は、公的資金で運営され、授業料を取らない公立学校である。一方で、伝統的な公立学校よりも運営上の裁量が大きく、大学進学準備、理数教育、芸術教育、規律を重視した教育など、学校ごとに特色を打ち出せる。                          人気校では応募者が定員を上回り、原則として抽選で入学者を決める。私立校やプレップスクールのように高額な授業料を負担する必要はなく、学力試験による選抜も原則として行われない。

高額な私立校へ通わせることは難しくても、子どもの教育環境を選びたい家庭にとって、チャーター校は授業料なしで選べる有力な選択肢になる。                      居住地によって通学先が決まる伝統的公立学校に対し、チャーター校では、家庭が教育方針や実績を見て学校を選ぶことができる。大学進学を明確に掲げる学校や、授業時間、宿題、出席、校内規律を重視する学校もある。                                公立学校の枠内にありながら、私立校に近い「学校を選ぶ」という経験を家庭に与える点が、チャーター校の魅力である。

その結果、地域に子どもが住み続けていても、伝統的公立学校からは生徒が減る。家庭にとっては教育環境の選択であっても、学区にとっては在籍者の流出となる。              チャーター校の制度上の位置づけや、抽選制であっても応募する家庭に違いが生じる理由については、知識ボックス①で整理している。

B チャーター校へ生徒が移ると、予算も移る

チャーター校を選ぶ家庭が増えれば、伝統的公立学校から生徒が減る。しかし、学区にとって重要なのは、在籍者数だけではない。

米国の学校財政では、生徒が移ると、その生徒に対応する公的資金も移る。          マサチューセッツ州では、学区に住む生徒がCommonwealth Charter School(マサチューセッツ州法に基づくチャーター校の類型)へ通う場合、居住地の学区がCharter Tuitionと呼ばれる金額を負担する。金額は、学区がその生徒を自らの公立学校で教育した場合に使うと見込まれる費用などを基礎に計算される(知識ボックス②参照)。

Southbridgeでは、2024-25年度に、同地区に住む約175人の生徒がCommonwealth Charter Schoolへ通っていた。これに対応するCharter Tuitionの総額は約314万ドルだった。      州から約112万ドルの補填が行われたため、学区の実質的な負担は約202万ドルとなる。州補填前の金額を生徒数で割ると、チャーター校へ通う生徒1人当たり約1万7,900ドルである。     この数字はWells Schoolの閉鎖時点ではなく、現在のSouthbridgeにおける資金移動を示したものである。

約175人の生徒がチャーター校を選ぶことで、年間約314万ドルの公的資金が学区外へ移り、州の補填後も約202万ドルが学区の負担として残る。家庭にとっての学校選択は、学区にとっては生徒だけでなく予算の流出でもある。

C 収入は生徒単位で減るが、学校の費用は残る

生徒が1人減れば、その生徒に対応する予算は減る。しかし、学校の費用は1人単位では減らない。1クラスから数人の生徒が減っても、教室、担任、校長、事務職員、体育館、図書館、暖房、警備、スクールバスは必要である。古い校舎であれば、生徒数にかかわらず修繕費や設備更新費もかかる。

学校財政では、収入は生徒単位で減る一方、費用は学校単位で残りやすい。            学区は、生徒が減るたびに教員や校舎を少しずつ削減できるわけではない。一定の水準を下回るまでは費用が残り、その間、生徒1人当たりの固定費負担は重くなる。

チャーター校への移動は、生徒数を減らすだけではない。生徒に伴う予算も学区外へ移る一方、校舎や人員の費用は残るため、伝統的公立学校の維持は次第に難しくなる。出生数の減少、地域内の人口移動、校舎の老朽化などと重なれば、こうした財政構造は学校の統合や閉鎖を促す要因となる。

学校は住宅に向いているが、採算が合うとは限らない

WSJの記事が紹介したように、全米では廃校の住宅転用が増えている。教室の広さ、大きな窓、高い天井など、学校には住宅へ転用しやすい特徴があるためである。              ただし、住宅に向いた建物であることと、開発事業として採算が合うことは別である。

A 教室は、オフィスより住宅に近い

オフィスビルの住宅転用では、フロアの奥行きと自然光の不足が障害になりやすい。これに対して学校は、外周に沿って教室が並び、各教室に窓が設けられていることが多い。         教室は、住戸に近い広さと、住宅に必要な窓をもともと備えている。             高い天井、駐車場、地域の中心部という立地も、住宅転用には有利である。道路や上下水道などの基盤が整った住宅地のなかに、大きな建物が残されている点も廃校の特徴である。

B 住宅に向いていても、改修費は重い

一方、築100年を超える校舎では、電気、給排水、暖房、空調などの設備更新が必要になる。階段、窓、出入口も、現在の建築基準や防火・バリアフリー基準に合わせなければならない。   アスベストや鉛の除去が必要になることもあり、歴史的建築物として保存する場合には、外観や窓などを残すための追加負担も生じる。

古い学校では、建物を残す費用と、住宅として安全に使うための費用が同時に発生する。    体育館、講堂、食堂、広い廊下などは、改修費や維持費がかかる一方、住戸ほど直接的な家賃を生まない。                                        改修する面積と、家賃を生む面積が一致しないことも、廃校転用の採算を悪化させる。

C 家賃を上げれば解決するわけではない

WSJが紹介した案件には、アフォーダブル住宅や高齢者向け住宅が含まれている。こうした住宅では、入居者の所得や家賃に制限があり、改修費の増加を自由に家賃へ転嫁できない。      高い改修費を負担しながら、完成後の家賃は抑えなければならない。

学校は住宅転用に向いた建物ではある。しかし、古い設備、有害物質、保存上の制約、非収益空間、家賃制限が重なるため、通常の家賃収入と借入だけで自然に採算が合うとは限らない。   廃校転用が成立するためには、家賃収入以外の資金が必要になる。

採算が合わないように見える廃校転用を、何が成立させているのか

前章で見た通り、学校は住宅に転用しやすい特徴を持つ一方、古い設備、有害物質、非収益空間、家賃制限によって、通常の家賃収入と借入だけでは採算が合いにくい。            それでも、WSJが紹介したArcher School Apartmentsには、4,000万ドルを超える資金が投じられた。                                         廃校転用を成立させているのは、建物の収益性だけではない。一つの事業に複数の公共目的を重ね、それぞれに対応する資金を集めている。

A 一つの廃校に、複数の公共目的を重ねる

使われなくなった学校を放置すれば、自治体には維持管理や安全確保の負担が残る。取り壊せば、地域の歴史を持つ建物は失われる。一方、通常の住宅として転用するだけでは、高額な改修費を回収できない場合がある。                                 そこで廃校転用では、建物を住宅へ変えるだけでなく、アフォーダブル住宅の供給、歴史的建物の保存、放棄建物の再生という複数の目的を一つの案件に重ねることが多い。

アフォーダブル住宅として利用すれば、家賃や入居者所得に条件が課される。歴史的な校舎を保存する場合には、外観や窓などを残すことが求められる。長期間使われていない建物を再生する場合には、一定期間の用途継続や事業完了などの条件が付くこともある。             廃校の住宅転用では、自由度の高い不動産開発を行うのではなく、複数の政策目的を満たすことが前提になる。                                      その代わりに、案件は住宅政策、歴史保存、放棄建物再生に対応する税制・公的支援の対象となり得る。どのように資金へつながるのかは、次に見る通りである。

B 税額控除は、開発資金へ変わる

日本語で「税額控除」と聞くと、開発業者自身の法人税を減らす制度を想像しやすい。しかし、米国のアフォーダブル住宅開発では、税額控除を利用する投資家が案件へ現金を出資する。

銀行などの投資家が現金を出資し、その見返りとして税額控除や減価償却などの税務上の利益を受け取る。開発事業には、投資家の資金がエクイティとして入る。               この資金調達は、一般にTax Equityと呼ばれる。税額控除が開発業者へ現金で直接交付されるのではなく、案件に付与された税務上の利益を投資家が評価し、その対価として資金を拠出する。

税額控除は、投資家を通じて開発資金に変わる。                      エクイティが入れば、事業が必要とする通常の借入額を抑えられる。家賃に上限があるアフォーダブル住宅では、家賃収入だけで多額の借入を返済することが難しいため、この資本構成が事業成立の前提となる。                                     投資家には税務上の利益があり、開発業者は返済義務のある借入とは異なる資金を得る。一方、住宅には家賃、入居者所得、利用期間などの条件が課される。

Tax Equityは、無条件に収益性を高める資金ではない。政策目的を満たす住宅を供給することと引き換えに、民間資本を開発へ呼び込む仕組みである。
制度の詳細は知識ボックス③で整理している。

C 事業資金調達事例 ―Archer Schoolは、複数の制度から資金を集めた

5Bで説明した通り、開発事業者は税額控除を投資家経由で開発資金とすることが可能である。   具体的な事例として、South Carolina州CharlestonのArcher School Apartmentsの開発案件を取り上げる。

総事業費は4,000万ドルを超えるため、残額は通常の融資やエクイティ、その他の資金で賄われたと考えられる。ただし、WSJが示した税制・公的資金だけで3,290万ドルに達しており、民間が通常の条件で調達すべき残余額が大幅に圧縮されている点が重要である。

資金源 金額 資金の性質
連邦・州の低所得者向け住宅税額控除federal and state low-income tax credits 2,440万ドル 税額控除を通じて調達したエクイティ
州の放棄建物税額控除        A state abandoned-building tax credit 200万ドル 州税額控除に由来する開発資金
郡からの資金           funds from the county 200万ドル 郡からの公的資金
市の返済免除可能ローン       A forgivable loan from the city 450万ドル 条件を満たせば返済が免除され得る ローン

案件には家賃、入居者所得、利用期間、改修方法などの条件が課される。税額控除や返済免除可能ローンは、政策目的を満たすことと引き換えに提供される資金である。            これらの資金は、同じ目的で供給されたものではない。アフォーダブル住宅の供給、放棄建物の再生、地域開発という異なる政策目的が、一つの開発案件に組み込まれている。

この事例の事業性は、建物から生まれる家賃収入だけでは説明できない。アフォーダブル住宅の供給、放棄建物の再生、地域開発という政策目的を一つの事業に重ね、税額控除と公的資金を開発資金へ変えたからである。

 若手金融マンへの示唆 ―採算が合わないように見える事業を、何が成立させているのか

廃校の住宅転用は、建物の取得費、改修費、家賃収入だけを見れば、事業性に疑問が残る案件である。特にアフォーダブル住宅では、高い改修費を自由に家賃へ転嫁することもできない。    それでもArcher School Apartmentsでは、4,000万ドルを超える事業に対し、WSJが示した税制・公的資金だけで3,290万ドルに達していた。

一見すると経済性が成立しない事業でも、税額控除、公的資金、返済免除可能ローンなどを組み合わせることで、民間が通常のエクイティや融資で調達すべき金額を大幅に圧縮できる。

金融案件を見る際には、対象資産そのものの収益性だけでなく、その事業がどの政策目的に対応し、どの制度資金を利用できるのかを見る必要がある。

米国では、採算不足を事業の外側から補うだけではなく、税制上の価値を投資家のエクイティへ変え、公的な政策目的を民間の資金調達に組み込む仕組みがある。

廃校の住宅転用は、事業性がある案件に後から制度支援を付け加えるというより、住宅供給、歴史保存、放棄建物再生という政策目的に対応する制度資金を資本構成へ組み込むことで、初めて事業性を持つ案件があることを示している

知識ボックス

① チャーター校とは何か――公立学校、私立校、プレップスクールとの違い

米国では、「公立学校」と「学校を選ぶこと」は必ずしも矛盾しない。チャーター校は公立学校でありながら、住所で自動的に割り当てられる学校とは異なり、家庭が教育方針などを見て応募する。                                          まず、今回の記事に関係する学校の違いを整理すると、次のようになる。

学校 財源・授業料 入学 主な特徴
伝統的公立学校 公費・   原則無料 居住地域を基礎 学区が運営し、地域の生徒を広く受け入れる
チャーター校 公費・無料 希望制。定員超過時は原則抽選 独自の教育方針と比較的大きな運営裁量
私立学校 学費・寄付 選考可能 宗教、教育方針、進学実績など学校ごとの差が大きい
プレップ   スクール 高額な学費 が一般的 学力などによる選考 大学進学準備を重視する私立学校
ボーディング スクール 高額な学費 が一般的 選考可能 寄宿生活を伴う私立学校

チャーター校は、私立学校の一種ではない。授業料を取らず、公的資金で運営される公立学校である。                                          伝統的公立学校では、通常、住所によって通学先が決まる。これに対してチャーター校は、州や認可機関からCharterと呼ばれる設置認可を受け、非営利法人などが運営する。教育内容、人事、授業時間、校内規則などに比較的大きな裁量を持つ一方、認可時に定められた学業成果や運営基準を満たすことを求められる。                              大学進学準備、理数教育、芸術教育、外国語教育など、学校ごとに重点分野を掲げることもできる。授業時間を長くし、宿題、出席、服装、校内規律を重視する学校もある。

高額な私立校の学費を負担しなくても、家庭が特色ある教育環境を選べることが、チャーター校の大きな魅力である。

抽選制でも、応募する家庭まで無作為になるわけではない                   人気のあるチャーター校では、応募者が定員を上回った場合、原則として抽選で入学者を決める。学校が試験によって成績上位者だけを選ぶ仕組みではない。                 ただし、抽選の対象になるためには、家庭が学校の存在を知り、教育方針や実績を調べ、期限内に応募する必要がある。                                  抽選は、応募者のなかから入学者を選ぶ仕組みであり、誰が応募するかまで無作為にする仕組みではない。教育への関心、情報収集力、英語力、保護者が手続きに使える時間などによって、応募する家庭と応募しない家庭が分かれる可能性がある。これは学校が生徒を選抜しているという意味ではなく、家庭が学校を選ぶ段階で差が生じるということである。

学校の教育効果と、生徒構成の変化は分けて考える                     チャーター校のなかには、大学進学を明確に掲げるCollege Preparatory Charter Schoolがある。厳格な規律、高い学習期待、長い授業時間、定期的なテストなどを組み合わせた教育は、一般にNo Excuses型と呼ばれてきた。                            こうした学校では、教育方針そのものが生徒の学力向上につながることがある。一方で、宿題、出席、生活規律、保護者の関与を強く求めるため、方針に合わない家庭や生徒が別の学校へ移る場合もある。                                         したがって、チャーター校の成績や大学進学実績を見る際には、少なくとも三つを分けて考える必要がある。どの家庭が応募したのか。学校の教育がどの程度の成果を生んだのか。どの生徒が在籍を続けたのか。                                     これは、チャーター校の成果を否定するための論点ではない。抽選制だから生徒構成の影響がすべて排除されているとも、成果のすべてが家庭の違いによるとも限らない。学校の教育効果と、応募・在籍を通じて生じる生徒構成の変化を区別して見る必要がある。

プレップスクール、ボーディングスクールとの違い                     プレップスクールは、一般には大学進学準備を重視する私立学校を指す。高額な授業料を設定し、入学試験や面接によって生徒を選ぶ学校も多い。                      ボーディングスクールは、生徒が寄宿舎で生活する私立学校である。大学進学準備を重視する学校が多いため、プレップスクールと重なる場合はあるが、両者は同じ意味ではない。         チャーター校が「College Prep」を掲げることはある。しかし、私立のプレップスクールとは、財源も入学制度も異なる。                                 チャーター校は、私立校に近い特色や教育方針を持つことがあっても、制度上は授業料無料の公立学校である。

② マサチューセッツ州では、生徒と予算はどのように移るのか

チャーター校に生徒が移ると、その生徒に対応する教育予算も移る。ただし、家庭が授業料を支払うわけではない。

マサチューセッツ州のCommonwealth Charter Schoolでは、チャーター校へ通う生徒の居住地である学区が、授業料相当額を負担する。                          家庭にとってチャーター校は授業料無料の公立学校だが、教育費そのものがなくなるわけではない。居住地の学区から、チャーター校へ公的資金が移される。

学区からチャーター校へ、いくら移るのか                         学区が負担する金額は、州内で一律ではない。生徒の居住する学区が、自らの公立学校でその生徒を教育した場合に必要となる費用を基礎に計算される。                    概ね、送出元となる学区の生徒1人当たり基礎教育費に、その学区が基礎教育費を上回って支出している部分と、施設費を加える。その学区からチャーター校へ通う生徒数を掛けた金額が、学区の負担額となる。                                      財政力が高く、生徒1人当たりに多くの教育費を支出している学区ほど、チャーター校へ生徒が移った際の1人当たり負担も大きくなり得る。                        州は、この金額を学区に交付するChapter 70教育補助金などから差し引き、チャーター校へ定期的に送金する。単なる予算上の推計ではなく、生徒の在籍に応じて具体的な金額が学区外へ移る制度である。                                        なお、Commonwealth Charter Schoolは特定の学校法人やチェーンの名称ではなく、マサチューセッツ州法に基づくチャーター校の類型である。州の認可を受けた独立法人が運営し、学区が直接運営する伝統的公立学校とは異なる。

Southbridgeでは、175人と約314万ドルが動いた                      マサチューセッツ州教育局の2024-25年度最終データによると、Southbridgeに居住し、Commonwealth Charter Schoolへ通った生徒は、年間平均のフルタイム換算で175人だった。  FTE(Full-Time Equivalent)とは、年度途中の入学や転校を在籍期間に応じて調整した人数である。年度を通じて在籍した生徒1人を1.0、半年在籍した場合は概ね0.5として数える。

Southbridgeからチャーター校へ移った資金は、次の通りである。

項目 2024-25年度
チャーター校在籍者 175人
基礎教育費部分 約293万ドル
施設費部分 約21万ドル
学区からの支払総額 約314万ドル
州から学区への還付 約112万ドル
Southbridge学区の実質負担 約202万ドル

2024-25年度の施設費は、生徒1人当たり1,188ドルに設定されていた。           1人当たりでは、Southbridgeからチャーター校へ約1万7,900ドルが支払われた。州からの還付を差し引いた後も、学区には1人当たり約1万1,500ドルの実質負担が残った。

Southbridge Public Schoolsの2025-26年度の学区内在籍者数は1,775人である。年度が異なるため厳密な同時比較ではないが、チャーター校へ通う175人は、その約1割に相当する。    同様に、Southbridge Public Schoolsの2025年度予算約3,730万ドルと比べると、チャーター校への支払総額約314万ドルは約8%、州からの還付を差し引いたネット支払額約202万ドルでも約5%に当たる。                                         比較年度が一致しない点には注意が必要だが、175人の学校選択が、学区財政にとって無視しにくい金額を動かしていることは分かる。

なぜ州は学区へ一部を還付するのか                             生徒がチャーター校へ移っても、送出元の学区は、直ちに同額の支出を削減できるわけではない。数人の生徒が減っただけでは、教員、校舎、管理部門、スクールバスなどの費用がそのまま残るためである。                                        マサチューセッツ州は、この移行期の負担を和らげるため、チャーター校への支払額が増加した場合、その増加額の一部を学区へ還付する制度を設けている。                 現行の仕組みでは、新たに増えたチャーター校授業料について、初年度は増加額の100%、翌年度は60%、その次の年度は40%が還付の対象となる。

州の還付制度は、生徒が移った直後には学区の固定費が残ることを前提とした移行措置である。 ただし、毎年の支払総額を恒久的に全額補填する制度ではない。主な対象は前年から増えた部分であり、チャーター校在籍者数と支払額が安定すれば、既存分に対する移行補助は縮小する。 Southbridgeでも、約314万ドルを支払った一方、施設費や移行補助などとして学区へ戻った金額は約112万ドルだった。最終的には約202万ドルが学区の実質負担として残っている。     なお、ここで示した175人と約314万ドルは、2024-25年度のSouthbridgeにおける資金移動である。Wells Schoolが閉鎖された時点の数字ではないため、このデータだけから同校の閉鎖原因をチャーター校への生徒移動に求めることはできない。                    Commonwealth Charter Schoolでは、生徒が移ると、送出元学区の教育費を基礎に計算された具体的な金額も移る。州は移行期の一部を還付するが、恒久的な全額補填ではない。Southbridgeでは、175人の学校選択が、州還付後でも年間約202万ドルの学区負担として残った。

③ 税額控除は、なぜ開発資金になるのか――Tax EquityとLIHTC

米国のアフォーダブル住宅開発では、税額控除が単なる節税措置ではなく、投資家からエクイティを呼び込むために使われる。                               この資金調達は、一般にTax Equityと呼ばれる。

税額控除は、所得控除とは異なる                             所得控除は,課税対象となる所得を減らす。これに対して税額控除は、計算された税額から直接差し引かれる。                                       税額控除は、安定した課税所得を持つ投資家にとって、将来の税負担を直接減らす経済的価値を持つ。                                           ただし、税額控除の額と、投資家が出資する現金の額がそのまま一致するわけではない。投資家は、税額控除を受け取る時期、制度上のリスク、案件管理費用、減価償却などの税務上の利益を含めて出資額を決める。

Tax Equityでは、誰が何を受け取るのか                         投資家は、住宅案件を保有するパートナーシップや特別目的会社へ出資する。その見返りとして、税額控除や減価償却などの税務上の利益を受け取る。                    開発事業者は、投資家から現金のエクイティを得る

税額控除そのものを単純に売買するのではなく、税務上の利益を受け取る投資家が、案件の持分を取得する。                                       投資家には、銀行、保険会社、大企業などが含まれる。複数の案件をまとめ、投資家を募り、案件管理を行うシンジケーターが介在する場合もある。

LIHTCは、アフォーダブル住宅の供給を支える                      Low-Income Housing Tax Credit(LIHTC)は、低所得者向け賃貸住宅の新築、取得、改修を支援する税額控除である。                                州の住宅機関などが税額控除枠を個別案件へ配分し、案件の所有者は、入居者所得や家賃に関する条件を受け入れる。                                   一般に、税額控除は10年間にわたって利用される。一方、物件には少なくとも15年間の法定コンプライアンス期間があり、州との契約などによって、さらに長いアフォーダビリティ期間が設定されることも多い。

LIHTCでは、家賃と入居者所得に制限を設ける代わりに、投資家から開発エクイティを呼び込む。このため、完成後の家賃収入だけでは多額の改修費を回収しにくい案件でも、必要な通常借入額を抑えられる。

廃校転用では、Historic Tax Creditが使われることもある                  認定された歴史的建物を収益物件として適格に改修する場合、一定の適格改修費に対して連邦Historic Tax Creditを利用できることがある。                        税制支援を受けられる一方、外観、窓、階段などを保存基準に沿って改修する必要がある。 Historic Tax Creditは、改修費を支援すると同時に、建物を自由に変更できる範囲を狭める。 廃校転用との相性はよいが、すべての旧学校が対象になるわけではない。なお、WSJはArcher School Apartmentsについて、連邦Historic Tax Creditの利用を明示していない。

州の放棄建物税額控除は、州ごとに異なる                       Abandoned Building Tax Creditなどの州税額控除は、長期間使われていない建物の再生を支援する制度である。                                     対象となる建物、税額控除率、上限、投資家への配分方法は州によって異なる。連邦LIHTCのような全米共通の制度ではない。

LIHTC、Historic Tax Credit、州の放棄建物税額控除は、いずれも税額控除だが、政策目的と適用条件は異なる。                                       LIHTCはアフォーダブル住宅、Historic Tax Creditは歴史保存、州の放棄建物税額控除は遊休建物の再生を主な目的とする。                                これらを一括して、同じ仕組みの「譲渡可能な税額控除」と理解することはできない。ただし、税務上の価値を投資家の出資へ変え、開発資金に組み込める場合がある点では共通する。

税額控除は、補助金とは何が違うのか                           補助金では、政府や自治体が開発事業へ直接資金を支給する。               Tax Equityでは、投資家が案件へ現金を出資し、その見返りとして税額控除などの税務上の利益を受け取る。                                       政府が開発費を直接支給するのではなく、税務上の価値を使って民間資本を呼び込む点が、Tax Equityの特徴である。                                  一方、郡からの公的資金や返済免除可能ローンはTax Equityとは異なる。返済免除可能ローンは法的にはローンであり、一定の条件を満たした場合に返済が免除される。

税額控除、公的資金、返済免除可能ローンは性質の異なる資金である。廃校転用では、これらを組み合わせることで、通常のエクイティや融資だけでは成立しにくい事業を支えている。

(編集部より)                                        あわせて読むと理解が深まる記事

 

参照記事

2026年7月6日 The Wall Street Journal

“A New Wellspring for Apartment Conversions: Century-Old Schoolhouses”

wsj.com

※本稿は、米国の金融コラム・業界記事を素材に、背景となる考え方や論点を整理することを目的とした考察です。本文中で紹介している参照記事には、有料媒体のものも含まれています。   本稿は生成AIを活用して下書き・構成整理を行い、筆者が検証・加筆修正の上で公開しています。