SpaceXの1.7兆ドル評価は、いつ「市場」に受け入れられたのか?

― IPO前ラウンド、xAI統合、Starlink、出口期待が作った評価ストーリー

 SpaceXのIPOが実現した。                                                                                           報道によれば、IPO価格ベースの評価額は約1.77兆ドルに達し、上場初日の終値ベースでは時価総額が2兆ドルを超えたという。史上最大級のIPOであり、Elon Musk氏を世界初のトリリオネアに押し上げる出来事としても大きく報じられた。

一方で、この評価額には多くの疑問も向けられている。                                                SpaceXにはStarlinkという成長中の通信事業がある一方で、xAI統合後はAI事業の赤字も抱えることになった。S-1では巨大な将来市場も示されたが、その前提にはまだ実現していない構想も多い。さらに、Musk氏による強い議決権支配や関連会社間の複雑な関係についても、複数のメディアが懸念を指摘している。

しかし、今回は「SpaceXの評価額は高すぎるのではないか」という整理ではない。     SpaceXの高い評価額は、IPO当日に突然、公開市場で生まれたものではない。IPO前の段階から、セカンダリー取引やxAIとの統合を通じて、評価額は段階的に切り上がってきた。しかも、その過程には、Andreessen Horowitz(a16z)、Founders Fund、Sequoia、Fidelity、T. Rowe Price、Alphabet、MGXなど、VC、運用会社、事業会社、政府系・国家資本系の資金まで関わっていた。いわば、未上場企業投資や成長企業投資に精通した「プロ中のプロ」と呼べる投資家たちである。

今回の違和感は、SpaceXの評価額が高すぎるかどうかではない。高すぎるように見える評価額が、なぜ公開市場だけでなく、IPO前のプロ投資家が参加する価格形成の場でも前提とされてきたのか、という点にある。                                 メディアやバリュエーション専門家が指摘する懸念は、かなり合理的に見える。それにもかかわらず、SpaceXの評価額はIPO前から上昇し、最終的には公開市場でも2兆ドルを超える水準で取引された。                                         では、この評価額はいつ、どの段階で「市場」に受け入れられたのだろうか。ここでいう「市場」とは、上場市場だけを指しているわけではない。未上場株式のセカンダリー取引、テンダーオファー、株式交換を伴う統合取引、そしてIPO価格・上場初日の公開市場価格を含む、複数の価格形成の場を指している。

今回は、SpaceXの評価額そのものを正しい、間違っていると判定するのではなく、IPO前からIPO直後までの報道を手がかりに、その評価ストーリーがどのように積み上がっていったのかを見てみたい。

記事の紹介 ― 1.25兆ドルから2.1兆ドルへ、SpaceX評価額をめぐる報道

今回のSpaceX IPOを考えるうえでは、IPO当日の評価額だけでなく、その前段階でどのような評価額が置かれていたのかを見る必要がある。

まず、2026年2月のWSJ記事 “SpaceX, xAI Tie Up, Forming $1.25 Trillion Company” は、SpaceXとxAIの統合を報じた。記事によれば、統合後会社の評価額は1.25兆ドルとされた。

また、同じく2026年2月のWSJ記事 “Inside Elon Musk’s $1.25 Trillion AI and Space Megamerger” では、その内訳として、旧SpaceXが1兆ドル、xAIが2,500億ドルと評価されていたことが紹介されている。同記事によれば、xAI投資家は統合後会社の約20%を保有する形になったという。                                       この統合では、Musk氏が関係する二つの会社が一体化した。WSJは、Musk氏がSpaceX株式の約42%を保有し、同社の議決権の約80%を支配していたとも報じている。また、Morgan Stanleyのバンカーが両社の推定評価額を提供し、取引の両側に関与していた一方で、“fairness opinion”(評価の公正性に関する意見書)は出していなかったという。さらに、両社は1月31日に統合契約を締結し、2日後に取引が完了したとされる。

一方、S-1から見える事業面では、Starlinkの成長とxAIの赤字が並んでいた。      PitchBookの2026年5月の記事 “6 charts: SpaceX’s S-1 financials” によれば、SpaceXの2025年売上高は約180億ドル、純損失は49億ドル、調整後EBITDAは65.8億ドルだった。同記事では、Starlinkの加入者数が増加し、調整後EBITDAも大きく伸びていたことが紹介されている。一方で、xAIは大きな営業損失を抱えていた。

IPO時の評価額については、バリュエーション面からの疑問も示されていた。        WSJの2026年6月の記事 “What the ‘Dean of Valuation’ Thinks Elon Musk’s SpaceX Is Really Worth” は、Aswath Damodaran教授を “dean of valuation”(バリュエーションの権威)として紹介し、同教授がSpaceXの株式価値を約1.3兆ドルと見積もっていたことを報じている。SpaceXのIPO価格ベース評価額は約1.77兆ドルであり、同教授の見積もりを上回っていた。また、SpaceXが示した28.5兆ドルのTAMの大部分がAI関連である点についても、同教授は慎重な見方を示していた。(TAMについては知識ボックス②を参照)

それでも、SpaceXはIPO価格を1株135ドルに設定した。                 WSJの2026年6月の記事 “SpaceX, Now Worth $2.1 Trillion, Pulls Off Goldilocks Debut” によれば、SpaceXのIPOは750億ドル規模となり、IPO価格ベースの評価額は約1.77兆ドルとなった。上場初日の終値は160.95ドルとなり、時価総額は2.1兆ドルを超えた

IPOでは、個人投資家の存在も目立った。                         同じWSJ記事では、個人投資家からの注文が約1,000億ドルに達した一方、実際の配分はIPO全体の約20%、金額にして約150億ドル相当だったと報じられている。また、個人投資家向け販売では、Bank of Americaが中心的な役割を担ったとされる。

一方で、既存株主が上場初日の価格ですぐに売却できたわけではない。         PitchBookの2026年6月の記事 “Stacking up SpaceX’s biggest winners” によれば、多くの既存株主はロックアップの対象となっていた。投資家は第2四半期決算後に制限株式の最大20%を売却でき、その後も段階的な売却制限が設けられていたとされる。Musk氏については、366日間のロックアップがあると報じられている。

SpaceXの評価額は、どのように「市場で受け入れ可能」になったのか?

ここからは、報道された事実を踏まえた筆者の推察である。                個々の投資家がSpaceXの評価額をどのように判断したのかは、外部からは分からない。したがって、本稿で述べるのは「市場はこう考えた」という断定ではない。              ここで考えたいのは、2026年2月のxAI統合時点で置かれた1.25兆ドル評価が、IPO前のプロ投資家にどのように受け入れられ得たのか、そしてその数カ月後に、IPO価格ベースの1.77兆ドル、上場初日終値ベースの2.1兆ドルへ、どのように接続されたのかという点である。

A 旧SpaceXの評価額は、xAI統合前から急速に切り上がっていた

前章で見たように、SpaceXとxAIの統合では、統合後会社が1.25兆ドル、内訳として旧SpaceXが1兆ドル、xAIが2,500億ドルと評価された。ここで目を引くのはxAIの2,500億ドル評価である。しかし、同じくらい重要なのは、旧SpaceX自体がすでに1兆ドルと評価されていた点である。

旧SpaceXの評価額は、2023年12月の約1,750億ドルから、2025年7月には約4,000億ドル、2025年12月には約8,000億ドル、2026年2月のxAI統合時点では1兆ドルになっていた。

この流れを見ると、1.25兆ドル評価は、xAIを突然高く評価しただけの話ではない。旧SpaceXそのものの評価額が、IPO前から大きく積み上がっていたことが分かる。(詳細は、知識ボックス①を参照)                                        その背景の一つとして考えられるのが、Starlinkである。Starlinkは加入者数や調整後EBITDAを伸ばしており、SpaceXには単なる将来構想だけでなく、成長中の通信インフラ事業が存在していた。

もちろん、Starlinkだけで1兆ドル評価を説明できるわけではない。しかし、旧SpaceXの評価額が急速に増額するうえで、Starlinkは少なくとも「実体ある成長事業」として、将来構想だけではない説明材料を与えていたようにも考えられる。

B xAIの2,500億ドル評価は、単体AIモデル企業の損益だけでは説明しにくい

次に見るべきは、xAIの2,500億ドル評価である。                     前項で見たように、1.25兆ドル評価のうち、旧SpaceXには1兆ドル、xAIには2,500億ドルという評価が置かれた。旧SpaceXの評価額がIPO前から大きく切りがっていたとしても、xAIに2,500億ドルという評価が付いたことは、それ自体として大きな論点である。

xAIは、OpenAIやAnthropicなどと競争するAIモデル企業であり、Grokを展開している。一方で、前章で見たように、xAIは大きな赤字も抱えていた。単体の売上や損益だけを見ると、2,500億ドルという評価は説明しにくい。

ここで考えたいのは、xAIが単体のAIモデル企業としてだけ見られていたわけではない可能性である。SpaceXに統合されたことで、xAIはX、Grok、Tesla、Starlink、AIインフラ構想など、Musk氏の複数事業をつなぐAIオプションとして見られる余地が生まれた。            xAIの2,500億ドル評価は、単体の売上や損益だけではなく、SpaceXやStarlink、X、Tesla、将来のAIインフラ構想との接続可能性を含んだ評価だったのではないか。

ただし、この見方は、SpaceX既存株主にとって無条件に応諾できるものだったわけではなさそうである。WSJ記事では、一部のSpaceX投資家が、xAI投資家に与えられた持分を大きいと見ていたことも紹介されている。                                 つまり、xAI統合は、SpaceXにAIオプションを取り込む取引である一方で、旧SpaceX株主にとっては、xAIの赤字や投資負担を引き受け、統合後会社の持分をxAI投資家へ渡す取引でもあった。

この評価が妥当だったかどうかは別問題である。                      ここで確認したいのは、xAIの評価が単体の損益ではなく、SpaceXとの統合によって広がるストーリーの中で置かれていたように見える、という点である。

C 1.25兆ドル評価は、IPO出口を見据えた価格でもあったのではないか

では、2026年2月時点で置かれた1.25兆ドル評価は、どのように置かれたのだろうか。     Aで見たように、旧SpaceXの評価額は、xAI統合前から急速に切り上がっていた。Bで見たように、xAIの2,500億ドル評価も、単体の損益だけではなく、Musk氏の事業群との接続可能性を含めた価格だった可能性がある。

ただし、それだけで1.25兆ドル評価を説明し切れるわけではない。ここでもう一つ重要なのは、xAI統合が、SpaceXのIPO準備と同じ局面で進んでいたことである。           WSJ記事では、SpaceXが上場準備を進める中で、xAI統合がもたらすリスクと機会について、SpaceXに近い関係者の間で議論されていたと紹介されている。               この記述から、「統合条件としてIPO計画が投資家に提示された」とまでは言えない。しかし少なくとも、xAI統合は、長期の未上場保有だけを前提とした取引ではなく、近い将来のIPOを意識し得るタイミングで行われていた。

未上場投資では、企業の本源価値だけでなく、次に誰がどの価格で買うのかも重要になる。特にIPOが近いと見られる企業では、未上場段階の評価額は、将来の公開市場価格と完全には切り離しにくい。                                        そうであれば、2026年2月の1.25兆ドル評価は、単なる長期DCFだけではなく、数カ月後に公開市場でどのような価格が付くかという見方とも結びついていた可能性がある。

もちろん、これは1.25兆ドル評価が正しかったことを意味しない。上場後に高い時価総額が付いたとしても、既存株主がその価格ですぐに売却できるわけではなく、実際のリターンはロックアップ解除後の価格にも左右される(知識ボックス⑤参照)。                   それでも、IPO準備が進む局面で1.25兆ドル評価が置かれたことを考えると、この評価額は、事業価値だけでなく、IPO出口を見据えた価格としても読めるのではないか。

D 1.77兆ドル評価には、個人投資家需要を意識したエクイティストーリーもあったのではないか

Cで見たように、2026年2月の1.25兆ドル評価は、IPO出口を意識し得る局面で置かれた価格だったように見える。                                    しかし、SpaceXはその数カ月後のIPOで、IPO価格ベース約1.77兆ドルの評価額に達した。さらに上場初日終値ベースでは、時価総額が2.1兆ドルを超えた。1.25兆ドル評価から、さらに大きく上昇することになる。

この上昇を考えるうえでは、バリュエーション面の疑問を避けることはできない。       前章で見たように、WSJはAswath Damodaran教授を “dean of valuation”(バリュエーションの権威)として紹介し、同教授がSpaceXの株式価値を約1.3兆ドルと見積もっていたことを報じている。また、SpaceXが示した28.5兆ドルのTAMの大部分がAI関連である点についても、同教授は慎重な見方を示していた。(TAMの読み方については、知識ボックス②を参照)

つまり、1.77兆ドル評価は、疑問のない価格ではなかった。                 それにもかかわらず、SpaceXは1.77兆ドル評価でIPOを実現した。ここで重要なのは、SpaceXのIPOが、機関投資家だけを相手にした資金調達ではなかったように見える点である。報道では、SpaceXが個人投資家への配分を大きくしたい意向を持っていたことや、できるだけ多くの個人投資家に株式を行き渡らせるための体制を幹事団に求めていたことも紹介されている。      これは、SpaceX側が、個人投資家を含む公開市場の需要を意識していた可能性を示しているのではないか。

もちろん、個人投資家需要だけで1.77兆ドル評価が成立したわけではない。機関投資家の需要、既存投資家の期待、指数採用をめぐる需給、AI関連銘柄への市場の関心など、複数の要素が重なっていたはずである。                                    ただし、SpaceXの場合、Musk氏の存在は個人投資家を含む公開市場の想像力に強く働きかける。WSJの別記事 “SpaceX’s IPO Proves the Power of Elon Musk’s ‘Superlative’ Strategy” は、Musk氏が「最大」「最初」「前例のない」といった構想を掲げ、世論や投資家の関心を引きつけてきたことを論じている。                              世界最大級のIPO、宇宙データセンター、AIインフラ、Starlink、xAI、火星。いずれも実現可能性や収益化には不確実性が残る。しかし、個人投資家にとっては、SpaceXは単なるロケット会社ではなく、Musk氏が描く次の巨大構想に参加する機会として映った可能性がある。

1.77兆ドル評価は、バリュエーション上の疑問を抱えながらも、Musk氏の巨大な将来構想に反応する個人投資家需要と、「高すぎるかもしれないが、見送ることも難しい」というFOMO的な需要が重なったことで公開市場に受け止められた価格だったのではないか。            このように見ると、1.77兆ドル評価は、既存事業やAI構想だけでなく、個人投資家を含む公開市場の参加需要も意識されたIPO価格だったようにも見える。

E ガバナンス上の論点も、IPO前から見えていた

最後に、ガバナンス上の論点にも触れておきたい。                     前章で見たように、SpaceXとxAIの統合では、Musk氏はSpaceX株式の約42%を保有し、同社の議決権の約80%を支配していたとされる。また、Morgan Stanleyは両社の推定評価額を提供し、取引の両側に関与していた一方で、評価の妥当性を確認するための “fairness opinion”(評価の公正性に関する意見書。知識ボックス④参照)は出していなかった。さらに、両社は1月31日に統合契約を締結し、2日後に取引が完了したと報じられている。

これらの点だけを見ても、xAI統合にはガバナンス上の論点があったように見える。      Musk氏が強い支配力を持つ会社同士の統合であり、xAIには大きな赤字と投資負担があった。一方で、統合後会社の持分はxAI投資家にも渡る。既存のSpaceX株主から見れば、どの会社の価値を、どの株主が、どの条件で受け取るのかは重要な問題だったはずである。

ここで重要なのは、こうした論点がIPO後に突然現れたわけではないという点である。     xAI統合時点で、これらの条件はすでに見えていた。それにもかかわらず、統合後会社には1.25兆ドルという評価が置かれ、その後、SpaceXはIPO価格ベースで約1.77兆ドルの評価に進んだ。

つまり、SpaceXの高い評価額は、ガバナンス上の論点が解消された後に成立したわけではない。
IPO前の段階から、そうした論点を抱えたまま、それでもなお評価ストーリーが受け入れられていた価格だったのではないか。

日本の若手金融マンへの示唆

若手金融マンにとって重要なのは、SpaceX IPOを今後の標準的なIPOモデルとして読むことではない。                                          むしろ逆である。                                          SpaceXのように、企業規模、創業者の影響力、既存投資家層、未上場段階の評価額、個人投資家需要、AIストーリー、指数採用期待が重なる案件は、通常のIPOとはかなり異なる条件の上に成り立っている。

したがって、今回のIPOから学ぶべきことは、「今後の大型IPOはこうなる」という単純な教訓ではない。むしろ、あまりに大きく、あまりに注目を集める案件では、標準的な価格発見やガバナンスの物差しだけでは説明しにくい力学が働くことがある、という点ではないか。

SpaceXの評価額に違和感を持つこと自体は、決して不自然ではない。むしろ、金融実務に長く携わってきた人ほど、固定価格方式、巨大TAM、xAI統合、fairness opinionの不在、Musk氏の議決権支配、個人投資家への大きな配分といった点に引っかかるはずである。           ただし、その違和感だけで「市場が間違っている」と片づけるのも早い。           重要なのは、SpaceXの価格を今後のIPOの標準形として読むことではない。どの条件が重なったからこそ、この例外的な価格形成が可能になったのかを分解して見ることではないか。

知識ボックス

① SpaceXの評価額推移:どこで1兆ドル企業になったのか

SpaceXのIPO後の時価総額は、上場初日の終値ベースで2兆ドルを超えたと報じられた。もっとも、この評価額はIPO当日に突然生まれたものではない。未上場の段階から、セカンダリー取引やテンダーオファー、xAIとの統合を通じて、評価額は段階的に切り上がっていた。(知識ボックス③参照)

概略を整理すると、次のようになる。

 

この表で重要なのは、SpaceXの2兆ドル超評価が、IPO当日に突然生まれたものではないという点である。特に2026年2月のxAI統合では、SpaceX単体に1兆ドル、xAIに2,500億ドルという評価が置かれた。                                       つまり、1兆ドル超のSpaceX評価は、公開市場に出る前から、未上場市場や統合取引の中で既に前提とされていた。

② TAMとは何か:28.5兆ドル市場は売上予想ではない

SpaceXのS-1では、同社が見込むTAMが28.5兆ドルと示されたと報じられている。そのうち、AI関連のTAMは約26兆ドルとされている。

TAMとは、Total Addressable Market(獲得可能な最大市場規模)の略である。ある企業が対象とし得る市場全体の大きさを示す概念であり、成長企業の説明ではよく使われる。      ただし、TAMはその企業の売上予想ではない。                       例えば、ある企業が「TAMは1兆ドル」と説明しても、それは「この企業が将来1兆ドルの売上を上げる」という意味ではない。対象市場全体の大きさを示しているにすぎず、そのうち何%を実際に獲得できるか、どの程度の利益率を実現できるか、どの時期に収益化できるかは別問題である。

今回のSpaceXでは、28.5兆ドルというTAMの大部分がAI事業に関するものとされている。これは、SpaceXが単なるロケット会社や衛星通信会社としてではなく、AIインフラ企業としても評価されようとしていることを示していると考えられる。                    一方で、TAMは評価ストーリーの材料にはなるが、市場規模そのものが売上や利益に直結するわけではない。重要なのは、その市場をどの程度、いつ、どの利益率で獲得できるかである。

次の表は、SpaceXの評価額が「高いか安いか」を判定するためのものではない。むしろ、どの要素が評価額を支え、どの要素がリスクとして残っているのかを分けて読むための補助線である。

③ セカンダリー取引とテンダーオファー:未上場企業の価格はどこで作られるのか

未上場企業には、上場企業のように毎日表示される株価がない。そのため、評価額は資金調達ラウンド、セカンダリー取引、テンダーオファーなどを通じて形成される

セカンダリー取引とは、既存株主が保有株式を他の投資家に売却する取引である。会社が新株を発行して資金を調達するプライマリー取引とは異なり、既存株主に流動性を与える役割を持つ。  テンダーオファーは、会社や投資家が既存株主に対して一定価格で株式の売却機会を提供する仕組みである。未上場企業では、従業員や初期投資家に一部の流動性を与えるために使われることがある。                                          こうした取引で使われる価格は、未上場企業の評価額の目安になる。ただし、上場市場の株価とは性格が異なる。取引参加者が限定されており、売買できる株数も限られるためである。

SpaceXのような巨大未上場企業では、セカンダリー取引やテンダーオファーで示される価格が、その後のIPO評価額の土台になることがある。したがって、IPO価格だけを見るのではなく、IPO前にどの価格で誰が売買していたのかを見ることが重要になる。

④ 株式交換とfairness opinion:xAI統合の評価はどう決まったのか

SpaceXとxAIの統合は、株式交換として組成されたと報じられている。株式交換とは、買収対価を現金ではなく、買収会社の株式で支払う取引である。

今回の報道では、xAI株式はSpaceX株式に転換される形となり、xAI投資家は統合後会社の約20%を受け取ることになったとされている。WSJによれば、SpaceXの取締役会はSpaceXを1兆ドル、xAIの取締役会はxAIを2,500億ドルと評価した。                      このような取引では、どちらの会社をいくらと評価するかが重要になる。なぜなら、その評価額によって、既存株主と相手方株主の持分比率が決まるからである。

報道では、Morgan Stanleyのバンカーが両社の推定評価額を提供し、さらにこの取引の両側に関与したとされている。通常のM&Aでは、売り手と買い手がそれぞれ別のアドバイザーを起用することが多い。しかし、この取引ではMusk氏が両社を支配していた。

また、WSJによれば、Morgan Stanleyはこの評価額についてfairness opinion(評価の公正性に関する意見書)を出していなかった。fairness opinionとは、M&Aなどの取引において、取引条件が財務的観点から公正といえるかについて、投資銀行などが示す意見書である。

もっとも、fairness opinionがないこと自体が直ちに不適切という意味ではない。特に未上場企業同士の取引では、必ずしも常に取得されるものではない。ただし、今回のように同じ人物が両社を支配し、評価額が株主間の持分配分に直結する取引では、評価プロセスそのものが注目されやすい。

⑤ ロックアップ:2.1兆ドル評価は、すぐ売れる価格とは限らない

SpaceXの上場初日終値ベースの時価総額は2.1兆ドルに達したと報じられている。しかし、既存株主にとって、その価値が直ちに現金化できるわけではない。                IPOでは、創業者、役員、従業員、VCなどの既存株主に対して、一定期間の売却制限が設けられることが多い。これがロックアップである

ロックアップの目的は、上場直後に大量の株式が市場へ流出し、株価が大きく下落することを防ぐことにある。一方で、既存株主にとっては、上場初日に表示された時価総額が、そのまま実現できる売却価格とは限らないことを意味する。

PitchBookによれば、SpaceXの投資家は第2四半期決算後に制限株式の最大20%を売却でき、その後、上場から70日から135日の間に段階的な売却が予定されている。一方、Musk氏の株式はさらに制限が強く、IPO後366日が経過するまで売却できないとされる。

このため、上場初日終値ベースの時価総額は、既存株主にとっては「紙の価値」である。実際のリターンは、ロックアップ解除後にどの価格でどれだけ売却できるかによって決まる。

特にSpaceXのように、既存株主の保有価値が非常に大きく、一部LPのポートフォリオ集中も指摘される場合、ロックアップ解除後の売却需給は重要な論点になる。2.1兆ドルという時価総額は大きな節目である一方、それがすぐに全株主の実現リターンになるわけではない。

(編集部より)                                        あわせて読むと理解が深まる記事

参照記事

2026年2月2日 The Wall Street Journal

“SpaceX, xAI Tie Up, Forming $1.25 Trillion Company”

wsj.com

 

2026年2月5日 The Wall Street Journal

“Inside Elon Musk’s $1.25 Trillion AI and Space Megamerger”

wsj.com

 

2026年5月21日 Pitchbook

“6 charts: SpaceX’s S-1 financials”

Just a moment...

 

2026年6月7日 The Wall Street Journal

“What the ‘Dean of Valuation’ Thinks Elon Musk’s SpaceX Is Really Worth”

wsj.com

 

2026年6月12日 The Wall Street Journal

“SpaceX, Now Worth $2.1 Trillion, Pulls Off Goldilocks Debut”

wsj.com

 

2026年6月13日 Pitchbook

“Stacking up SpaceX’s biggest winners”

Just a moment...

 

2026年6月12日 The Wall Street Journal

“SpaceX’s IPO Proves the Power of Elon Musk’s ‘Superlative’ Strategy”

wsj.com

 ※本稿は、米国の金融コラム・業界記事を素材に、背景となる考え方や論点を整理することを目的とした考察です。本文中で紹介している参照記事には、有料媒体のものも含まれています。   本稿は生成AIを活用して下書き・構成整理を行い、筆者が検証・加筆修正の上で公開しています。