― 限定的な株式売却の仕組み
未上場企業の株式は、上場株式のように証券取引所で自由に売買できない。従業員が株式報酬を受け取っていても、会社が上場するか、保有株式を売却する機会が設けられなければ、実際の現金へ換えることは難しい。
そこで、大型未上場企業が従業員や既存株主へ流動性を提供するために利用する仕組みの一つが、従業員向けテンダーオファーである。
これは未上場株を自由に売買できる市場を設けるものではない。会社が売却対象者、価格、売却上限、買い手、実施時期などの条件を管理しながら、既存株主に株式を売却する機会を提供する仕組みである。
未上場企業のテンダーオファーとは何か
未上場企業のテンダーオファーは、会社主導または会社の承認の下で、従業員、創業者、初期投資家などが保有する既存株式を売却する取引である。
買い手には、会社自身、既存投資家、新たに参加する機関投資家などがなる。会社自身、または会社が承認した投資家が、あらかじめ定めた価格と条件で一定数の株式を買い付ける。
通常のIPOでは、企業の株式が証券取引所へ上場し、その後は市場参加者の間で売買される。これに対し、テンダーオファーでは会社は未上場のままであり、対象となる株主だけに限定的な売却機会が与えられる。
なぜ企業は流動性を提供するのか
成長企業では、現金給与に加えて自社株式が従業員報酬の重要な部分を占めることがある。しかし、株式の評価額が上昇しても、売却機会がなければ、従業員はその価値を実際の現金として利用できない。
テンダーオファーを実施すれば、従業員は保有株式の一部を現金化し、自社株への資産集中を緩和できる。会社にとっても、株式報酬の実質的な価値を高めて人材の採用・定着を支えるとともに、従業員や初期投資家から早期上場を求められる圧力を和らげる効果がある。
かいしゃテンダーオファーには、株主構成を管理する役割もある。会社が買い手や売却量を管理すれば、承認していない第三者へ株式が広がることを避けながら、既存株主へ換金機会を提供できる。
会社は何を管理するのか
未上場企業のテンダーオファーでは、誰でも自由に株式を売却できるわけではない。
会社は、勤続年数や保有株式の種類などに基づいて売却対象者を定め、一人当たりの売却可能額や株数に上限を設けることがある。すべての保有株式を売却できるとは限らず、申込みが買付予定数を上回れば、売却株数が減らされる場合もある。
価格についても、公開市場のように日々の売買で決まるのではなく、直近の資金調達、会社の業績、投資家との交渉などを基に設定される。買い手と実施時期も会社が管理するため、従業員が希望する時点で自由に売却できる仕組みではない。
このように条件を限定することで、会社は従業員へ流動性を提供しながら、株主構成や情報管理を維持する。
新株発行との違い
テンダーオファーでは、従業員や初期投資家などの既存株主が保有株式を売却し、その代金を受け取る。売買代金は原則として売却した株主へ支払われ、会社の事業資金になるとは限らない。
一方、新株発行では、会社が新しい株式を発行して投資家へ売却する。投資家が支払った資金は会社に入り、設備投資、研究開発、採用などに利用される。
したがって、同じ企業価値を基準に取引されていても、既存株主へ流動性を与える取引と、会社が成長資金を調達する取引では、資金の受取人が異なる。
確認すべき点
未上場企業のテンダーオファーを見る際には、誰が売却対象となるのか、一人当たりどこまで売却できるのか、会社・既存投資家・新規投資家のうち誰が買うのかを確認する必要がある。あわせて、価格がどのように決められたか、会社への資金流入を伴うのかも区別する必要がある。
テンダー価格から企業価値が示されることもあるが、その価格で全株主が自由に全保有株式を売却できるわけではない。企業価値として示される金額と、個々の株主が実際に現金化できる金額は同じではない。
未上場企業の従業員向けテンダーオファーは、未上場株を自由に売買する市場ではない。会社が条件と株主構成を管理しながら、従業員や既存株主へ限定的な流動性を提供する仕組みである。
(編集部より)
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