― ANA・JALの制度変更を、デルタとユナイテッドから読み解く
近年、日本でも航空会社のマイレージプログラムの見直しが相次いでいる。JALはLife Status Programを導入し、従来とは異なる評価軸を取り入れた。一方、ANAはスーパーフライヤーズカード(SFC)の制度を見直し、年間300万円の決済を条件に特典を維持する設計を打ち出している。
こうした変更は、利用者の間では「改悪」として受け止められることも多い。特に、これまで一度取得すれば長く維持できると考えられていた上級会員資格の前提が変わりつつある点には、違和感を持つ人も少なくない。
もっとも、このような制度変更を、単に「サービス水準の低下」として捉えるだけでよいのだろうか。むしろ、なぜ今、このような見直しが行われているのかという視点から整理することで、別の理解が可能になるようにも思われる。
本稿では、米国の航空会社に関する2つの記事を手がかりに、航空会社のロイヤルティ戦略を整理する。デルタやユナイテッドの事例を踏まえたうえで、JAL・ANAの制度変更をどのように理解できるのかを考えてみたい。
記事の紹介 ~米国航空会社の動向
今回参照する1本目の記事は、2026年4月24日の The Wall Street Journal 記事 “United’s Card-Counting CEO Made a Huge Bet—and It’s Paying Off” である。
記事は、ユナイテッド航空のCEOであるScott Kirby氏が進めてきた戦略と、その成果を取り上げている。
同社の株価は、2021年初頭以降で倍増している。一方で、デルタ航空を除く他の主要な米国航空会社の株価は同期間に下落しており、業界内での差が広がっている。さらに、直近ではデルタ航空とユナイテッド航空の2社で、業界利益の90%以上を占めているとされるとWSJは報じている。
記事の中では、航空業界における従来の前提にも触れられている。すなわち、顧客は基本的に価格とスケジュールで航空会社を選ぶという見方である。しかし、デルタ航空は、より良い体験を提供すれば顧客はその航空会社を選び、より高い価格を支払うことを示してきた。実際、最安値を探すのではなく、デルタのアプリから直接予約する顧客が一定程度存在すると指摘されている。
Kirby氏は、プレミアムシートに対して追加料金を支払う顧客が、従来の想定以上に存在すると考えているとされる。その一方で、そうした顧客が購入したい商品を提供していたのは、長らくデルタ航空に限られていたとも指摘されている。
ユナイテッドは、この認識を前提に戦略を進めてきた。同社は「United Next」と呼ばれる成長戦略のもとで、小型のリージョナルジェットを削減し、より大型の機材への投資を進めている。リージョナルジェットは、座席が狭く、Wi-Fiが不十分で、頭上の収納スペースも限られており、ビジネスクラスの設定がないことが多いなど、顧客体験の面で課題が指摘されている。
また、機内の座席モニターの再導入や高速Wi-Fiの整備、アプリの機能強化なども進めている。さらに、遅延の原因を細かく分類して責任を割り振る「ディレイコード」の運用を見直し、問題解決に時間を使う方向へと変更したことも紹介されている。
2本目の記事は、2026年3月13日のReuters記事 “Credit-card cash reshapes US airline loyalty — and profit” である。
この記事は、米国の航空会社において、ロイヤルティ・プログラムが収益の重要な柱の一つとなっていることを説明している。
記事によれば、米国の航空会社では、提携するクレジットカード会社が航空会社からマイルを購入し、そのマイルをカード利用者へのリワードとして付与する仕組みが広く用いられている。このマイル販売が航空会社にとって大きな収益源となっている。
例えば、デルタ航空は2025年にAmerican Expressから82億ドルの現金を受け取っており、これは同社の調整後営業利益を上回る規模とされる。また、アメリカン航空も提携カードなどから62億ドルの収入を得ており、いずれも航空会社の収益構造において無視できない水準に達している。
こうした収益は、航空券販売と比べると、需要や燃料価格の変動の影響を相対的に受けにくいとされる一方で、銀行の戦略や信用環境、規制の動向に影響を受ける側面もあると指摘されている。
また、記事はロイヤルティ・プログラムの設計変更にも触れている。航空会社は、最も安い運賃に対するマイル付与を縮小するなど、低価格帯の利用者への還元を見直す一方で、提携カード利用者を優遇する方向に動いているとされる。
航空会社はどのように収益を上げ、誰を重視しているのか
A. 収益モデルの変化がロイヤルティの設計を変えている
前項で見た2つの記事は、一見すると別の話に見える。WSJはプレミアム化、Reutersはカード収益である。しかし両者は、同じ構造の異なる側面を示している。
出発点として、航空会社の収益源の変化がある。米国では、カード会社が航空会社からマイルを購入し、その対価が巨額かつ相対的に変動要因が限定される収益となっている。
このため、航空会社にとって重要なのは、搭乗回数そのものではなく、それがどのように収益に結びつくかという点である。その結果、「どの顧客が継続的に収益(搭乗・決済の双方)を生むか」という観点がより強く意識されるようになる。
こうした評価軸の変化を反映する形で、ロイヤルティ・プログラムも、従来の搭乗実績への報酬から、カード決済や高単価利用といった“望ましい行動”を引き出すための設計へと変化していると考えられる。
WSJ記事で示されたプレミアム投資と、Reuters記事で示されたマイル販売収入は、同じ構造の異なる側面として理解できる。すなわち、重なり合う顧客層に対して、決済とプレミアム利用の両面から収益を引き出す設計が採られているとみられる。
もっとも、この関係は一方向の因果に限られるわけではない。顧客ロイヤルティの高さそのものがカード利用を促し、その結果としてカード収益が拡大している可能性もある。また、プレミアム需要の拡大についても、ビジネス需要の回復や供給制約といった他の要因の影響を受けている可能性がある。
B. 米国航空会社は同じ方向を向きながら異なる実装を採っている
もっとも、米国の航空会社が同一の制度を採用しているわけではない。
デルタ航空は、最も明確に“決済を軸とした評価”を採用している。
カード利用額がMedallion資格に反映される仕組みは、その象徴である。
これに対して、ユナイテッド航空は搭乗と決済の組み合わせによる評価を採用している。
カードは補完的な役割を持ちながらも、搭乗実績も依然として重要である。
さらに、アメリカン航空は異なる設計を採る。
Loyalty Pointsにより、搭乗、カード、提携サービスを同一の基準で評価している。
このように制度は異なるが、共通点は明確である。いずれも「毎年の利用・支出」を基準に顧客を評価している。すなわち、過去ではなく、「現在の収益貢献」が評価軸となっている。
C. 日本への波及:JALとANAの分岐
この動きは、日本の航空会社にも波及している可能性がある。
JALはLife Status Programを導入し、搭乗に加えてカード決済や生活サービス利用を含めたポイントを生涯で累積する仕組みを採用した。これは、単年度ではなく、長期的な関係性を評価する設計である。
一方、ANAはスーパーフライヤーズカードの制度を見直し、年間300万円の決済を特典維持の条件として組み込んだ。これは、現在の収益貢献を基準に顧客を評価する設計である。
両社はいずれもロイヤルティの再設計を進めているが、その方向には違いが見られる。
- JAL:積み上げ型(長期関係)
- ANA:選別型(単年度収益)
この違いは、各社の制度を比較するとより明確になる(知識ボックス③参照)。
米国の航空会社では、カード決済や年間支出を評価に組み込む仕組みが広く見られる。これに対し、日本ではJALのように生涯累積型の要素が残る。一方でANAは、年間決済額を特典維持の条件に組み込むことで、米国型に近い設計へと移行しつつある。
若手金融マンへの示唆 ― 制度変更をどう読み解くか
今回見てきた内容は、航空会社という特定の業界の話に見えるかもしれない。
しかし、ここで起きている変化は、より広い文脈でも理解することができる。
ポイントは、企業の収益構造が変わることで、どの顧客が価値を持つかという評価軸そのものが変わるという点である。
航空会社の場合、従来は搭乗そのものが収益の中心であり、「よく飛ぶ顧客」が重要な顧客層と考えられてきた。
しかし、マイル販売やカード決済が収益の大きな部分を占めるようになると、状況は変わる。
どれだけ頻繁に飛ぶかではなく、どれだけ継続的に収益をもたらすかが重要になる。
その結果として、ロイヤルティ・プログラムの設計も変わり、顧客の評価軸も変わる。
こうした視点は、航空会社に限らず、金融の領域でも応用できる。
例えば、資産運用ビジネスにおいても、
- 手数料収益の構造
- 顧客の資産規模
- 継続的な取引関係
によって、どの顧客が重視されるかは変わる。
また、クレジットカードや決済、サブスクリプション型のビジネスにおいても、
単発の取引よりも、継続的に収益を生む顧客の価値が高く評価される構造は共通している。
今回のJAL・ANAの制度変更も、利用者目線では「改悪」と映る部分があるかもしれない。
しかし、それを単なるサービス水準の変化として捉えるのではなく、
企業がどの収益源を重視し、どの顧客を中心に据えようとしているのか
という観点から見ることで、別の理解が可能になる。
制度変更は、その企業の戦略を最も分かりやすく表すシグナルの一つである。
その背後にある構造を読み取る視点を持つことは、金融に携わるうえでも有用であるように思われる。
知識ボックス
① 「ディレイコード」とは何か
― なぜユナイテッドは廃止したのか
航空会社では、フライトの遅延が発生した際、その原因を分類するために「ディレイコード」と呼ばれる仕組みが用いられてきた。
これは、遅延の原因を「機材」「天候」「乗務員」「地上オペレーション」などに分類し、どの部門に責任があるかを明確にするためのものである。運航の効率性や責任管理の観点からは合理的な仕組みとされてきた。
しかし、この運用には副作用もあった。
現場では、わずかな遅延であっても「どのコードに該当するか」を巡って議論が行われ、結果として問題解決よりも責任の所在が優先される場面が生じていたとされる。
ユナイテッド航空は、この運用を見直し、ディレイコードによる責任分類をやめる方向へと転換した。代わりに、遅延の原因を巡る議論ではなく、実際の問題解決に時間を使うことを重視するようになった。
また、顧客への情報提供のあり方も見直された。従来は15分ごとに遅延が延長されるような案内が一般的だったが、実際の状況に近い時間を最初から提示する方針へと変更されている。
この変更は、単なる運用改善ではなく、内部の効率性よりも顧客体験を優先するという考え方の転換として位置づけられる。
② マイルは「無料の特典」ではない(収益認識と戦略)
カード利用で付与されるマイルは、航空会社が無償で配っているのではなく、カード会社が航空会社から購入した“商品”である。航空会社はこの販売対価を受け取るが、同時に将来の特典提供義務(マイルの償還)も負うため、販売対価のうち将来の特典提供に対応する部分は繰延収益として計上され、マイルが利用された時点などで収益認識される。一方、マーケティング対価などとして当期に認識される部分もある。。
ここで重要なのは、
(1)販売時点で現金が先に入ること、
(2)償還コストをコントロールできることである。
償還は空席のある便へ誘導したり、必要マイル数を調整したりすることで実質コストを抑えられる。また、需要の弱い時間帯や路線に特典枠を厚くすることで、閑散期・低需要便への需要シフト(イールド管理の補助)にも使える。
結果として、マイルは「将来の座席提供義務」であると同時に、現在の現金収入と需要調整のレバーを兼ねる資産になる。米国ではこの収入規模が大きく、ロイヤルティは販促ではなく収益の柱として位置づけられている。
③ 日米主要航空会社ロイヤルティ・プログラムの比較
航空会社のロイヤルティ・プログラムは、単なるマイル制度ではなく、どの顧客をどのように評価するかを示す設計図でもある。近年は、搭乗実績に加え、カード決済や生活サービス利用を評価対象に含める仕組みも見られる。
以下では、主要航空会社の制度を比較することで、その違いを整理する。

■ 具体例で見る(デルタのケース)
例えば、Delta Air Lines のGold Medallion資格は、**年間10,000 MQD(Medallion Qualification Dollars)**が必要とされる。
MQDは航空券の支出額に加え、提携カード利用でも獲得できる。
例えば、対象のAmexカードでは以下のような換算が行われる。
- Reserve系カード:10ドル利用=1 MQD
- Platinum系カード:20ドル利用=1 MQD
この前提で考えると、
- Gold(10,000 MQD)をカード利用のみで満たす場合
→ 約10万ドル(約1,500万円)〜20万ドル(約3,000万円)規模の年間決済が必要
つまり、「カードでステータスを作れる」が、その水準は非常に高いという設計になっている。
■ ここから読み取れる構造
まず、米国3社(デルタ・ユナイテッド・アメリカン)はいずれも、毎年の利用や支出を基準に顧客を評価する設計を採用している。
過去の実績ではなく、単年度の行動が重視される点が特徴である。
一方で、JALは生涯累積型であり、長期的な関係性の構築を評価する設計となっている。
ANAは中間的な位置づけにあるものの、今回の制度変更により、単年度の決済条件を強く意識した設計へと踏み込んでいる。
参照記事
2026年4月24日 The Wall Street Journal記事
“United’s Card-Counting CEO Made a Huge Bet—and It’s Paying Off”
2026年3月13日 Reuters記事
“Credit-card cash reshapes US airline loyalty — and profit”
Credit-card cash reshapes US airline loyalty — and profit | Reuters
※本稿は、米国の金融コラム・業界記事を素材に、背景となる考え方や論点を整理することを目的とした考察です。本文中で紹介している参照記事には、有料媒体のものも含まれています。
本稿は生成AIを活用して下書き・構成整理を行い、筆者が検証・加筆修正の上で公開しています。
