プライベート市場における「過信(arrogance)」はどこから生まれるのか

― Apollo幹部が示した評価・信用・投資家行動のねじれ

なぜこのテーマを取り上げるのか

主要な金融メディアや市場参加者の間で、プライベートクレジットを巡る議論は、この数ヶ月で質が変化している。 本来、LBOの資本構造ではクレジットはエクイティよりも優先される。それにもかかわらず、現在の市場ではエクイティに資金が流入する一方で、クレジットには警戒感が強まっている。 この動きは、資本構造の前提と資金フローの間にねじれが生じていることを示している可能性がある。 こうしたねじれは、単なる個別事象ではなく、市場の前提に対する見方の変化として現れている可能性がある。当初は、解約制限や資金流出といった流動性の問題として語られていた現象に加え、現在では評価や信用の前提そのものへの疑念も強まりつつある。 その変化を象徴する発言の一つとして注目されるのが、Apolloの幹部であるJohn Zitoの発言である。この発言は単なる市場見通しではなく、プライベート市場の構造的な歪みの可能性を、評価・信用・投資家行動という複数のレイヤーを横断する形で示唆するものである。特に、それらを束ねる概念として提示された**過信(arrogance)**という言葉は、現在の市場を理解する上で重要な手がかりとなり得る。

WSJの記事紹介~米国で起きていること(Apollo Zito発言)

まずWSJ “Top Apollo Executive Sounds Off on ‘Arrogance’ in Private Markets” が報じているのは、Apolloの幹部であるJohn Zitoが、投資家向けの非公開の場で行った一連の発言である。そこで彼は、プライベート市場の現状について、評価・信用・投資家行動にまたがる複数の論点を同時に提示している。

その中で象徴的なのが、
“I literally think all the marks are wrong.”
(現在の評価は、市場実態を適切に反映していない可能性がある)
という発言である。これは、プライベートエクイティやプライベートクレジットにおける内部評価が、足元の市場環境に対して遅れている可能性を示唆するものであり、評価の問題が単なる価格の水準ではなく、前提の妥当性に影響し得る論点であることを示唆している。

さらに彼は、評価の問題が投資家との関係に直結する点についても、
“If you don’t mark your book, I think you actually lose trust with the clients.”
(評価を適切に見直さなければ、投資家の信認を失う)
と述べている。ここで示されているのは、評価の遅れがそのまま信認の毀損につながり得るという構造である。

加えて、プライベートクレジットの信用リスクについては、
“Joe Software Company… is going to recover somewhere between 20 and 40 cents.”
(一部のソフトウェア企業向けローンでは、元本の2〜4割程度しか回収できない可能性がある)
と述べ、従来想定されていた安定的な回収水準に疑問を投げかけている。

また、投資家行動についても、
“There’s unlimited demand for secondary private equity but they are worried about private credit… I can’t compute.”
(エクイティには資金が集まる一方でクレジットが警戒されている状況は、論理的に理解できない)
と述べ、資本構造の優先順位と実際の資金フローの間に生じているねじれを指摘している。

こうした一連の発言を踏まえ、WSJは
“Zito called out ‘arrogance’ in private markets …”
と報じている。すなわち、これらの発言は『arrogance』という言葉で要約されており、評価・信用・投資行動にまたがる現象として捉えることもできる。

一方で彼は、自社について、
“On our balance sheet, we are 95% investment-grade…”
(自社の資産の大半は投資適格で構成されている)
と述べ、相対的な安定性を強調するとともに、
“we are going to be able to… buy stuff… that makes us significant amounts of capital.”
(市場調整局面では大きな投資機会が生まれる)
とし、将来の投資機会にも言及している。

(筆者補足)

ここで重要なのは、WSJがこれらを単なる個別の発言としてではなく、一つの問題意識として束ねて提示している点である。これらは個別の論点ではなく、評価・信用・投資家行動という異なる領域で同時に歪みが生じている可能性をあるという整理である。

評価・信用・投資家行動に生じている「ねじれ」、「過信(arrogance)」

この発言の本質は、個別のリスクではなく、複数の構造的な歪みが同時に存在している点にある。

第一に、評価の問題である。プライベート市場では、資産は市場価格ではなく内部評価によって測定される。そのため、市場環境が変化しても価格は直ちには調整されず、評価は遅れて反映される傾向がある。「マークが間違っている」という発言は、この評価の遅れが単なる時間差ではなく、乖離を生んでいる可能性、あるいはそのリスクを示唆している。そしてその乖離は、最終的には投資家との信認の問題へと転化する。

第二に、信用の問題である。特にソフトウェアLBOのように、高いバリュエーションとレバレッジで組成された案件については、環境変化が重なった場合、従来想定されていた回収水準が維持できない可能性がある。回収率20〜40%という水準は、単なるボラティリティではなく、一部の案件では、一部領域では、信用前提の再評価が必要となる局面を示唆している。ただしこれは市場全体ではなく、特定の過熱領域に集中したリスクとして捉えるべきである。

第三に、投資家行動の問題である。本来、LBOの資本構造では、クレジットがエクイティよりも優先される。企業価値が毀損した場合、まずエクイティが損失を吸収し、それでも足りない場合にクレジットに損失が及ぶ。したがって理論的には、クレジットに懸念がある場合、エクイティはそれ以上に慎重に評価されるべきである。

しかし現実には、エクイティに資金が流入し、クレジットが警戒されるという逆の動きが観察されている。これは、投資家が資本構造の優先順位ではなく、ディスカウントやリターンの見え方といった要素に基づいて意思決定している可能性や、流動性・価格発見の違いが影響している可能性を示唆している。このような行動は、短期的には合理的に見えても、資本構造の前提と整合しないまま意思決定が行われることで、結果としてリスクを見落とす要因となり得る。

加えて、流動性や価格形成の違いといった構造的要因も、この非整合に影響している可能性がある。

こうした評価・信用・投資行動の歪みが同時に存在する状態を、Zitoは**過信(arrogance)**と表現している。この過信は単なる楽観ではなく、リスクが評価に十分反映されていない状態のまま、その前提が維持され、資金配分が継続している状態を指していると解釈することもできる。そしてその対象は、運用会社だけでなく、プライベート市場に長く関与してきた投資家や、近年流入した個人投資家層にも及んでいる可能性もある。

この発言をどう読むべきか(ポジショントーク)

もっとも、この発言は市場に対する純粋な警告としてだけ読むべきではない。Zitoは、プライベート市場全体、とくにPE評価やソフトウェアLBOに過信(arrogance)があると指摘しているが、同時にApolloの相対的な安全性を際立たせている。

彼は問題の中心をソフトウェアLBOという特定領域に寄せつつ、自社は大型企業中心であり、投資適格資産が大半を占めると説明している。これは、「リスクは存在するが、それは自社の主要ポートフォリオには当てはまらない」という構図を提示するものである。また、将来的な市場調整を投資機会として位置づけることで、現在の不安定な環境をポジティブな文脈に転換している。

したがって、この発言は
市場への警告と、自社ポジションの正当化が同時に含まれている可能性がある点に留意する必要がある。

若手金融マンへのコメント

この種の発言を読む際に重要なのは、内容の正否だけでなく、その構造を理解することである。一つの発言の中には、複数の意図が重なっている。市場全体への問題提起であると同時に、リスクの所在を限定し、自社の立場を相対的に有利に見せ、さらに将来の投資機会を示唆する。

実務においては、
「誰が、どの立場で、何を強調し、何を相対化しているのか」
そして、その発言がどの市場の歪みと接続しているのかを読み解くことが重要になる。

今回のケースでは、評価・信用・投資家行動という三つのレイヤーが同時に動いている。重要なのは、それぞれを個別に理解することではなく、それらが同時にどの方向に動いているのかを読むことである。。

知識ボックス

① プライベート市場における「マーク(marks)」とは何か

プライベートエクイティやプライベートクレジットでは、資産は日々の市場価格ではなく、運用会社による内部評価(marks)で測定される。これは類似企業比較や将来キャッシュフローのモデルに基づくため、市場環境が急変しても即座には反映されない。その結果、**価格調整が遅れる(lagging valuation)**という特徴を持つ。

② ソフトウェアLBOとプライベートクレジット

近年のLBOでは、成長性の高さからソフトウェア企業が主要な投資対象となってきた。これらの案件は高いバリュエーションとレバレッジを伴い、その資金の多くをプライベートクレジットが担っている。そのため、ソフトウェア企業の評価調整は、クレジットの回収(credit recovery)にも直接影響する構造にある。

③ 資本構造とリスクの優先順位

LBOでは、クレジット(ローン)がエクイティよりも優先される。企業価値が下落した場合、まずエクイティが損失を吸収し、その後にクレジットに損失が及ぶ。したがって理論上は、クレジットに懸念がある場合、エクイティはそれ以上にリスクが高いと評価されるべきであるが、実際の市場ではこの順序が必ずしも守られないことがある。

参照記事

2026年3月12日 The Wall Street Journal誌記事

“Top Apollo Executive Sounds Off on ‘Arrogance’ in Private Markets”

wsj.com

※本稿は、米国の金融コラム・業界記事を素材に、背景となる考え方や論点を整理することを目的とした考察です。本文中で紹介している参照記事には、有料媒体のものも含まれています。
本稿は生成AIを活用して下書き・構成整理を行い、筆者が検証・加筆修正の上で公開しています。