— Prediction Market(予測市場)は新しい市場インフラになりうるのか
なぜ今、Prediction Market(予測市場)の「評価」を見るのか
Prediction Marketをめぐる議論は、ここ数ヶ月で少し性質が変わってきているように見える。
「Prediction Market(予測市場)とは何か」で見たように、この市場はまず、「金融商品なのか、それとも賭博なのか」という制度上の境界をめぐって強い論争の対象となっている。
しかしその一方で、資本市場の一部では、この領域が単なる際物的なベッティング・アプリとしてではなく、かなり高い評価で見られ始めている。
Kalshi や Polymarket が巨額の資金調達を進め、高いバリュエーションが付されているのは、その象徴的な動きである。
ここで重要なのは、Prediction Market が今どれだけ流行っているかという話そのものではない。
むしろ面白いのは、なぜ資本市場の一部が、この領域を単なる娯楽サービス以上のものとして見始めているのかという点にある。
その背景には、Prediction Market が単に「何かに賭けるアプリ」ではなく、
将来の不確実性に価格を付ける市場として見られ始めていることがある。
さらに最近では、この市場が個人向けの簡易な取引の場にとどまらず、broker を通じて hedge fund などのプロ市場参加者も実際にアクセスしている市場として語られるようになっている。
もしそうだとすれば、Prediction Market は単なる話題のサービスではなく、新しい市場インフラになりうる領域として理解した方が実態に近いのかもしれない。
本稿では、Kalshi と Polymarket の高い評価を手がかりに、Prediction Marketがなぜ資本市場から注目されているのかを整理したい。
WSJの記事紹介 ~Kalshi と Polymarket は高く評価されている
2026年3月、The Wall Street Journal は、Prediction Marketをめぐって、規制論争とは別の側面を示す2本の記事を報じている。
それが、2026年3月7日付の
“Kalshi and Polymarket Are Each Eyeing Roughly $20 Billion Valuations”
と、2026年3月19日付の
“Kalshi Cinches $22 Billion Valuation in Ongoing Round”
である。
これらの記事が伝えているのは、Prediction Market が州政府や議会から強い反発を受けているにもかかわらず、資本市場ではきわめて高い評価が付されているという事実である。
まず3月7日の記事では、Kalshi と Polymarket の両社が、それぞれ約200億ドル規模の評価で新たな資金調達を模索していると報じられている。
記事によれば、Kalshi は2025年12月時点で約110億ドル、Polymarket は2025年10月時点で約90億ドル前後の評価であったとされており、今回の議論は、わずか数カ月で評価がさらに大きく切り上がる可能性を示している。
同記事は、Kalshi がすでに米国内で本格的に事業を展開しており、スポーツ、政治、経済、ポップカルチャーなど幅広いテーマで取引を提供していることを紹介している。
さらに、Kalshi の revenue run rate(足元の取引ペース等をもとに年率換算した売上規模)は10億ドルを超え、足元では約15億ドル規模に達しているとも報じられている。
一方で Polymarket については、現時点では米国ユーザー向けの正式な国内展開に制約があるものの、記事は同社が米国内向けの規制対応版アプリを年内に投入する計画を持つことを伝えている。
また、同社については、New York Stock Exchange の親会社である Intercontinental Exchange(ICE) が最大20億ドル規模の投資を決めており、Prediction Market という領域に対して、既存の市場インフラ側のプレイヤーも関心を示し始めていることがうかがえる。
続く3月19日の記事では、Kalshi がさらに資金調達を進め、約220億ドルの評価で約10億ドル規模の新規調達を行っていると報じられている。
このラウンドは Coatue Management が主導するとされ、Kalshi の企業価値は、2025年末からわずか数カ月でほぼ倍増する水準に達したことになる。
同記事で特に注目されるのは、Kalshi の顧客基盤に関する記述である。
WSJ は、Kalshi の利用者として、一般消費者だけでなく、institutional market-makers(機関系マーケットメイカー)や、特定の結果に対するリスク対応や見通し管理に使いうる企業顧客の存在にも言及している。
もっとも、これらの高い評価が、安定した制度環境の上で与えられているわけではないことも、両記事は同時に示している。
Kalshi や Polymarket は、スポーツ関連契約や地政学イベントをめぐって強い批判を受けており、Prediction Market という領域自体が、依然として大きな規制論争の中にあることに変わりはない。
(筆者補足)
ここで興味深いのは、Prediction Market が制度の側から強く争われている一方で、資本市場からは高い成長期待をもって評価されている点である。
次章では、なぜこの領域が単なるベッティング・アプリ以上のものとして見られ始めているのかを整理する。
資本市場は、Prediction Market の何を評価しているのか
A|それは「賭け」ではなく、「価格の市場」として見られ始めている
Prediction Marketが高く評価される理由を考えるとき、まず重要なのは、それが単なる「当たるか外れるか」の娯楽商品としてではなく、将来の出来事に価格を付ける市場として見られ始めている点である。
たとえば、「年内にFRBが利下げを行うか」「原油価格が一定水準を超えるか」「ある候補者が選挙に勝つか」といった問いに対して、市場では Yes / No 型の契約に価格が付き、その価格が売買される。
このとき取引されているのは、厳密には出来事そのものではなく、その出来事が起こると市場参加者がどれくらい見ているかという「確率価格」ようなものである。
(Prediction Market の基本的な仕組みや、「なぜこれが単なる賭けではなく市場と呼ばれうるのか」については、知識ボックス①を参照)
ここで重要なのは、利用者が単に最終結果を待っているだけではないという点である。
価格が動けば、その途中で売却して損益を確定することもできる。
したがって Prediction Market は、最終的な当たり外れだけでなく、価格そのものが取引対象になっている。
この意味で、Prediction Market は単なる賭けではなく、将来の不確実性に対する見通しが、市場価格として形成される場として理解することができる。
そして、投資家の一部がこの領域に期待している理由の一つも、おそらくこの点にある。
つまり、投資家が高く評価しているのは、スポーツや選挙に賭けるアプリとしての現在の姿だけではなく、
将来の出来事に価格を付ける市場が、どこまで成立しうるのかという可能性である。
ここで見られているのは、単なる「ベットの人気」ではなく、
これまで十分に取引対象化されてこなかったイベント・リスクや見通しが、価格を持つ市場に変わりうるかという点である。
B|Prediction Market は、「簡略化された先物市場」にも似たものとして読むことができるか?
もっとも、Prediction Market が単に「価格の市場」であるというだけでは、ここまで高く評価される理由としてはまだ弱い。
より重要なのは、この市場がかなり単純な構造で参加できるように設計されている点にある。
この点については、Bloomberg のコラムニストである Matt Levine の見方が示唆的である。
Levine は、Prediction Market を単なる賭博市場としてではなく、「0か1か」で決着する極めて単純化されたデリバティブ市場にも似たものとして捉えている。
通常の先物市場やオプション市場では、参加者は価格変動に応じて日々の評価損益を受け、証拠金管理や追証、信用管理、清算機関との接続といった複雑なインフラの上で取引する必要がある。
そのため、制度的には成熟した市場であっても、個人投資家にとってはかなり遠い世界である。
これに対して Prediction Market は、契約を Yes / No の二値(binary) に単純化し、最終的な支払額を0ドルか1ドルに固定することで、こうした複雑さの多くを取り払っている。
その結果、利用者は比較的わかりやすい形でポジションを持つことができ、運営側にとっても、通常のデリバティブ市場より簡素な構造で市場を提供しやすい。
この点は重要である。
なぜなら、Prediction Market の伸びしろは、単に「人が賭けたくなる話題が多い」ことだけではなく、
これまで複雑すぎて広く開かれてこなかったイベント・リスクの取引を、より簡単な形で市場化できるところにあるからである。
言い換えれば、Prediction Market は、まったく新しいものというより、
これまで一部の市場参加者しか扱いにくかった不確実性の取引を、かなり単純化して大衆化した市場
と見ることもできる。
もしこの見方に立つなら、Prediction Market の本質は、単なる「変わった賭けアプリ」ではなく、
デリバティブ市場の一部を、よりシンプルな形で下ろしてきたものとして理解した方が実態に近い。
そして、資本市場がこの領域を高く評価する理由の一つも、まさにこの点にある。
C|それは個人向けアプリから機関投資家やプロの市場参加者の参入を伴う市場へ広がる兆しを見せている
そして、この領域が単なる個人向けアプリとしてではなく、より高い評価で見られるもう一つの理由は、Prediction Market がすでに個人向けの簡易な取引の場を超えて、機関投資家やプロ市場参加者のアクセス対象にもなり始めている点にある。
この点を象徴するのが、Bloomberg が報じた、Clear Street や Marex といった broker が、Kalshi の予測市場へのアクセスを hedge fund に提供し始めているという動きである。
これは一見すると地味なニュースに見えるが、実際にはかなり重要である。(この点の意味については、知識ボックス⑤を参照)
なぜなら、Prediction Market が本当に「市場」として育つかどうかは、単にユーザー数が増えるかどうかだけではなく、
プロの市場参加者が入ってくるかどうかに大きく左右されるからである。
ヘッジファンドやマーケットメイカーが参加するようになると、この市場は単なる娯楽の場ではなくなる。
そこでは、価格差を狙った裁定、相対価値取引、イベント・リスクへのポジション、あるいは他市場との連動を意識した戦略など、より金融市場に近いロジックが持ち込まれるようになる。
もちろん、Prediction Market が直ちに既存のデリバティブ市場と同じ深さや厚みを持つわけではない。
しかし、broker を通じてプロの市場参加者が入りやすくなる動きは、Prediction Market の参加者層に変化の兆しがあることを示している。この点は、Prediction Market が単なる 個人向けアプリではなく、より本格的な市場として見られ始めていることを示唆する材料でもある。
それは本当に「新しい市場インフラ」として定着するのか
もっとも、ここまで見てきたことから、Prediction Marketをそのまま新しい市場インフラとして位置づけるのは早い。
重要なのは、「市場に見えること」と「持続的な市場インフラになること」は別の話であるという点である。
確かに Prediction Market は、将来の出来事に価格を付ける市場として理解することができる。
また、シンプルな設計によって参加者を広げやすく、一部では機関投資家やプロの市場参加者とも接続し始めている。その意味で、この領域が市場としての性格を帯び始めていること自体は確かである。ただし、それがそのまま持続的な市場になるとは限らない。
Prediction Market は、市場としての厚みや継続性がまだ十分に検証されていない。
また、価格発見の質そのものについても、まだ慎重に見る必要がある。
さらに重要なのは、制度の持続可能性である。
金融インフラとして大きく育つ市場は、単に技術的に成立するだけでは足りない。
その市場が、社会的にも制度的にも、「あってよい市場」として許容される必要がある。
「Prediction Market(予測市場)とは何か」で見たように、Prediction Market はすでに、州ギャンブル規制、スポーツベッティングとの関係、政治・選挙に関する取引の是非といった論点と正面から接続している。
その意味で、この市場が制度的・社会的な摩擦を乗り越えて、本当に持続可能な市場として定着できるかは、なお開かれた問題である。
そう考えると、Kalshi や Polymarket に対する現在の高い評価は、すでに完成した市場インフラに対する評価というより、この領域がそこまで到達できるかどうかに対する、かなり大きな将来期待を織り込んだ評価と見る方が自然である。
若手金融マンにとっての意味
「Prediction Market(予測市場)とは何か」では、Prediction Marketが「金融商品なのか、それとも賭博なのか」という制度上の境界で強く争われていることを見た。
それに対して今回は、同じ領域が資本市場からは高い評価を受け始めているという、もう一つの見方を整理してきた。
この二つを並べて見ると、ここで起きているのは単なる新しいサービスの登場ではなく、制度の側ではなお争われている領域に対して、資本市場の側では先に高い成長期待が織り込まれ始めている局面であるとも言える。その意味で、このテーマから得られる示唆は、Prediction Market という個別分野の理解にとどまらない。
たとえば、資本市場がこの領域を評価しているのは、現時点のユーザー数や売上規模だけではなく、
「将来の不確実性に価格を付ける市場がどこまで成立しうるか」という構造に対してである。
一方で、「Prediction Market(予測市場)とは何か」で見たように、その同じ市場は、制度や規範の側からは強い制約を受ける。つまりここでは、市場として成立しうる構造と、社会的・制度的に許容される範囲とが、必ずしも一致していない。
このずれは、Prediction Market に限った話ではない。
むしろ金融市場では、新しい商品や市場が立ち上がるとき、「技術的に可能かどうか」と「制度として認められるかどうか」がずれる場面は繰り返し現れてきた。
そう考えると、この領域を読む上で重要なのは、Prediction Market の是非を判断することではなく、
どのような構造が「市場」として評価され、どのような点が制度側との摩擦を生んでいるのかを分けて捉えることである。
今回見てきたように、同じ対象であっても、
- 制度の側からは問題として見えるものが
- 資本市場からは成長機会として見られる
ことは珍しくない。
その意味で、Prediction Market をめぐる動きは、
金融市場が何を取引可能な対象として認識しようとしているのかを考える材料として読むことができる。
知識ボックス
①|Prediction Market は、なぜ単なる「賭け」で終わらないのか
※ Prediction Marketの基本的な仕組みや制度上の位置づけについては、「Prediction Market(予測市場)とは何か」記事を参照のこと。
Prediction Marketが単なる「賭け」と少し異なるのは、将来の出来事に対する見通しが、価格として取引されている点にある。
たとえば、「年内にFRBが利下げを行うか」という市場で、Yes が0.62ドル、No が0.38ドルで取引されていれば、その価格は単なる払戻し条件ではなく、市場参加者がその出来事の実現可能性をどう見ているかを表していると解釈される。
このとき利用者は、単に「当たるか外れるか」を待つだけではない。
途中で価格が動けば、その価格変化を売買することもできる。
つまり Prediction Market で取引されているのは、厳密には出来事そのものではなく、
「将来の不確実性に対して市場が付けた“確率価格」である。
この意味で Prediction Market は、単なる娯楽的な賭けのようであると同時に、将来の見通しが価格化される市場としての性格も持っている。
今回のブログ記事で重要なのは、この「市場性」そのものというより、こうした価格の場が、なぜ資本市場から高く評価されうるのかという点である。
また、Prediction Market が「市場」として見られやすい理由の一つは、取引の構造がかなり単純化されている点にある。
通常の先物やオプションのようなデリバティブ市場では、価格変動に応じた証拠金管理、追証、信用管理、清算機関との接続など、かなり複雑な仕組みが必要になる。
これに対して Prediction Market の多くは、最終的な結果が Yes / No(0か1か) で決まる契約であり、損益の構造も比較的わかりやすい。
そのため、Prediction Market は、従来のデリバティブ市場よりもかなり単純な形で「将来の不確実性」を取引可能にしている。
②|なぜ資本市場は「市場インフラ」を高く評価するのか
— 取引の“対象”より、“場”を握る会社が強い理由
資本市場が高く評価しやすい企業には、ある共通点がある。
それは、何かを一回売る会社よりも、取引や流れが起きる“場”そのものを握る会社であることが多いという点である。
たとえば、取引所、証券会社、決済ネットワーク、データベンダー、マーケットプレイス、広告プラットフォームなどは、
何か一つの商品が当たるかどうかに依存するというより、
参加者が集まり、取引が繰り返される構造そのものから価値を生む。
こうした会社が評価されやすい理由は、大きく3つある。
第一に、反復性が高いことである。
一度きりの売上ではなく、取引が起きるたびに手数料やスプレッド、データ収入が積み上がる。
つまり、ヒット商品を当てる会社というより、市場活動が続く限り収益機会が繰り返し発生する会社として見られやすい。
第二に、ネットワーク効果が働きやすいことである。
参加者が増えるほど流動性が増し、流動性が増えるほどさらに参加者が増える。
この循環が回り始めると、後発が追いつきにくい「場」の優位性が生まれる。
金融市場で言えば、価格がよく形成される市場ほど人が集まり、人が集まる市場ほどさらに価格がよくなる、という構造である。
第三に、隣接領域への拡張性が高いことである。
取引の場を握る会社は、最初は一つの対象だけを扱っていても、後から
- 新しい商品
- 新しいユーザー層
- データ提供
- API
- ヘッジ・執行・清算などの周辺機能
へと広がりやすい。
そのため、資本市場はしばしば、「今何を売っているか」だけでなく、「将来どの市場を取りに行けるか」まで含めて評価することが多い。
この観点から見ると、Kalshi や Polymarket が高く評価される理由も少し見えやすくなる。
投資家が見ているのは、単に「スポーツや選挙に賭けるアプリ」としての現在の姿だけではない。
むしろ、将来の不確実性に価格を付ける市場の“場”を握れるかどうかが、評価の核心になっている可能性がある。
もちろん、その評価が正しいかどうかは別問題である。
実際には、規制、流動性、市場の健全性、取り扱えるテーマの限界など、多くの制約がある。
ただし少なくとも、資本市場がこうした会社を高く評価するとき、見ているのは「賭けの面白さ」よりも、
「市場インフラ”としてどこまで伸びうるか」であることが多い。
その意味で、Prediction Market の評価を考える際には、個別の賭け対象よりも、その会社が「取引の場」をどこまで押さえられるかを見る方が、本質に近い。
もっとも、Prediction Market が本当に大きな市場になりうるかは、なお検証途上である。
ただし少なくとも、Kalshi や Polymarket の取引高はここ数年で急拡大しており、資本市場がこの領域を「単なる際物」以上のものとして見始める背景には、こうした立ち上がりの速さもある。
参考までに、米国スポーツベッティング市場全体との比較で見た取引高推移を下図に示す。

重要なのは、現時点の絶対規模そのものよりも、「将来の不確実性に価格を付ける市場」が、どこまで立ち上がりうるか をこの伸びが示している点である。
③|Kalshi の会社概要
— 制度の中に入ろうとする Prediction Market
Kalshi は2018年設立の米国企業で、将来起きる出来事に対して取引できる Prediction Marketを提供している。
創業者は Tarek Mansour と Luana Lopes Lara で、Kalshi は自らを CFTC(米商品先物取引委員会)規制下の event contracts(イベント契約)市場として位置づけている。
Kalshi の特徴は、Prediction Market を単なるベッティング・アプリとしてではなく、金融市場の一部として制度の中に定着させようとしている点にある。
そのため、米国内で制度的な正統性を持ちやすく、将来的には機関投資家や企業のヘッジ需要、既存金融市場との接続が期待されやすい。
一方で、その制度的正統性こそが、現在の州政府や議会との対立の焦点にもなっている。
Kalshi は、Prediction Market を制度の中で正当化しようとする代表的プレイヤーとして理解すると分かりやすい。
④|Polymarket の会社概要
— 制度より先に市場を作った Prediction Market
Polymarket は2020年設立の Prediction Marketプラットフォームで、創業者は Shayne Coplan である。
将来起きる出来事に対して Yes / No 型の契約を売買する仕組みを提供しており、政治、経済、地政学、スポーツなど幅広いテーマを扱ってきた。
Polymarket の特徴は、Kalshi よりも明確に crypto / API / グローバル流動性 の色が強い点にある。
特に政治やニュースイベントの価格発見市場として存在感が強く、Prediction Market を情報市場・流動性市場として成長させてきた。
一方で、米国内では規制上の制約があり、制度的な正統性の面では Kalshi より不安定な部分もある。
その意味で Polymarket は、Prediction Market を制度的な正統性より先に市場として拡大してきた代表的プレイヤーと整理すると理解しやすい。
⑤|Kalshi と Polymarket は何を取りに行っているのか
— 同じ Prediction Market でも、構造と戦略は大きく異なる
Kalshi と Polymarket は、いずれも将来の出来事に対して Yes / No 型の契約を売買する Prediction Marketであり、表面的にはよく似たサービスに見える。
しかし実際には、規制、技術、決済、結果判定の仕組み、そして取り込みたい市場参加者の違いが、そのまま両社の戦略の違いとして現れている。
まず最も大きい違いは、規制上の立ち位置である。
Kalshi は、米国で CFTC(米商品先物取引委員会)規制下の取引所として運営されており、自らを event contracts(イベント契約)市場として位置づけている。つまり Kalshi は、Prediction Market を金融市場の一部として制度の中に定着させる方向を目指している。
これに対して Polymarket は、暗号資産基盤で成長してきたグローバル市場であり、まずは規制の外側で流動性とユーザーを集め、後から制度や提携を接続していく構造に近い。つまり Polymarket は、制度的な正統性よりも先に流動性と市場形成を進めてきたと理解すると分かりやすい。
次に重要なのは、市場運営と結果確定の仕組みである。
Kalshi は、あらかじめ定義されたルールと公式データに基づいて、取引所として中央集権的に結果を確定する。
一方 Polymarket は、オラクルや外部情報の取り込みを通じて、より分散的・プロトコル寄りの形で結果を確定する。
この違いは、単なる技術選択ではなく、「何によって市場の信頼を作るのか」の違いでもある。
Kalshi は、制度・規制・中央管理によって信頼を構築する。
これに対して Polymarket は、流動性・市場参加者・価格形成そのものによって信頼を構築する色が強い。
また、決済や利用環境の違いも、両社の性格の違いをよく表している。
Kalshi は、米国内の規制市場として、比較的伝統的な金融インフラに近い形で利用される。
これに対して Polymarket は、暗号資産ベースの設計やオンチェーン寄りの仕組みを背景に持っており、より crypto / internet-native な市場に近い。
この違いは、そのまま取り込みたい顧客層の違いにもつながる。
Kalshi は、米国内の制度的正統性を活かして、将来的には
- 機関投資家
- 企業によるリスク対応・見通し管理ニーズ
- 既存金融市場との接続
を取りに行きやすい構造を持つ。
一方 Polymarket は、まずグローバルに流動性と価格発見力を確保し、
- 政治・ニュース・地政学といった情報市場
- API やデータ利用
- 開発者・crypto ネイティブな参加者
を軸に市場を拡張していく色が強い。
ここで近時、特に重要なのが、Prediction Market が個人向けアプリにとどまらず、プロの市場参加者にも接続され始めている点である。
Bloomberg などの報道によれば、Clear Street や Marex といった broker(ブローカー)が、Kalshi の市場へのアクセスを hedge fund(ヘッジファンド)に提供し始めている。
ここでいう broker とは、単に注文を取り次ぐだけでなく、顧客に対して市場アクセス、執行、場合によっては信用供与やレバレッジ取引の枠組みを提供する存在である。
したがって、この動きの意味は、単に「ヘッジファンドも面白がって参加している」という話ではない。
Prediction Market が、個人のベット市場から、プロの資金が裁定・相対価値・イベントリスクの取引対象として使いうる市場へ近づきつつあることを示している。
この点を踏まえると、Kalshi が狙っているのは、単なる consumer app としての拡大ではなく、
制度の中で、より本格的な市場参加者を取り込みながら、Prediction Market を金融市場の一部にしていくこと
だと見る方が自然である。
一方 Polymarket は、まずは市場そのものの流動性と価格発見力を押さえ、その後に制度・提携・利用用途を接続していくことで、
「最も情報が集まり、最も早く価格が付く市場」を目指していると見ることができる。
このように整理すると、両社は同じ Prediction Market を提供しているようでいて、
- Kalshi は 制度の中で市場を作る会社
- Polymarket は 市場を先に作り、制度を後から接続する会社
という違いがある。
そしてこの違いは、単なる事業モデルの違いではなく、
Prediction Market を「何として成立させようとしているのか」
という戦略そのものの違いでもある。
参照記事
2026年3月7日 The Wall Street Journal記事
“Kalshi and Polymarket Are Each Eyeing Roughly $20 Billion Valuations”
2026年3月19日 The Wall Street Journal記事
“Kalshi Cinches $22 Billion Valuation in Ongoing Round”
※ 本ブログは投資助言や特定の取引を推奨するものではありません。
内容は一般的な論点整理を目的としたものであり、最終的な判断は読者ご自身で行ってください。
